泣いた悪猿67
「それでな。お察しの通り……永山、てめえを西に引っ張ろうとしたんだが……」
首俵は語気を弱めた。この人はやはり知恵者だと、永山は感心した。どこでどう察したのかわからないが、首俵は気付いたようだ。永山が首俵についていく意志がないことを。
「永山。てめえ、変わったな」
声を落とした首俵の様子に、永山は取り繕う術を考えた。
「いや……首俵さん、あなたの言うことに間違いがあるわけないっす。柱神とかマジすげえし、さすがは首俵さんパネェやって感じだし、飛騨のクソジジイなんざ眼中にねえとか、もう凄過ぎて言葉もねえっす。でも……オレ……事情出来ちまって……ああっ!信じらんねえ!どう考えても一世一代のチャンスだろこれ!!」
永山は、このときばかりはユウコを恨んだ。首俵の持ってきた出世話すら断らせる、可愛い憎らしい彼女を恨んだ。
「てめえは、いつもそうだったな。気イ遣って、オレに何をどう言えば上手く付き合えるか、考えて、な……マシラってのは大概バカが揃ってるが、てめえは一味違った。
そういうトコを見込んで、連れて行こうと思ったわけだが……そういうてめえだからこそ、普通のマシラだったら有り得ねえモンを背負っちまったのかもな」




