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泣いた悪猿63

その後日

チケット切りの仕事が終わって一息ついた永山に、懐かしい顔が目の前に現れた。

「……あなたは!」

永山のボキャブラリーに本来、“あなた”などという語彙(ごい)はない。それが世の中で最も尊敬する特定の者のみを示す敬称だからだ。そう呼べと命じられたわけでもないが、永山は自分で勝手にそう決めていた。


それは人の姿をしていた。

金髪の髪が天を衝くようにそそり立ち、色褪せた皮のジャンパーを着ていた。

永山にこんな風貌の知り合いはいない。外見だけなら、クラブの使用交渉のために訪れたバンドマン崩れと見紛っただろう。

仄かな獣臭と濃い血の臭いと、何より強力な邪鬼の気配が、それが誰であるのかを物語っていた。

「首俵さん!……お久しぶりです」

感涙に咽ぶ永山の表情を隠すかのように、首俵はヘッドロックを仕掛けてじゃれた。

「泣いてんじゃねーぞ、ヘタレトウジ!」

相変わらず力の加減が下手な首俵の拳せいで、永山は激痛に悶えそうになった。その懐かしさと痛みのせいで、しばらくは涙が止まらなかった。

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