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泣いた悪猿62
気圧の谷のような温度差がある会話は、やがてバスの到着によって終わった。さすがの死神も、運賃を支払ってまでついてくるつもりはないようだ。
「じゃあ、な。お前の女だ。幸せにする方法くらい、お前が万全にしておけ」
無造作に投げつけられた言葉を、永山は真摯に受け止めた。
「もし、万が一……」
永山は言いかけて、止めた。それがとんでもなく不躾な願いであることに気付いたからだ。無視するように去り行く死神の背中に、行儀良くお辞儀をした。
「トウジ君、ヤクザさんの舎弟さんみたい」
ユウコはクスクス笑いした。
「尊敬してるんだ。あの人のこと」
永山は真顔で言い切った。
「そうだ。えらい人だ。オレなんかより、ずっとな」
永山は心底そう思った。十年前のあの日、上等の肉としか思わなかった子供と同一人物に頭を垂れているのだから、世の中は不思議なものだ。
(報いよう、あの人の心意気に……)
永山は感謝の気持ちを噛み締めながら、バスへと乗った。




