57/88
泣いた悪猿57
何という運命だろう。
ユウコはかつて言った。
「あなたこそ運命の人」
ユウコは正しかった。人の子を作れない永山と、子を宿せないユウコ。二人の出会いは偶然にして必然だったのだ。
……いや、違う
永山は思い出した。
違う
人の子を作れない二人を出会わせる、運命というものの残虐さはそんな生易しいものではなかった。
永山は思い出した。
たった今思い出した。
子宮ガンワクチン
人間社会の医療になどほとんど関わったことのない永山だったが、その名前は知っていた。
どうしてワクチンが無料で受けられるのか。不妊のリスクを伴うワクチンがどうして世に出回ってしまったのか。永山は知っていた。
子宮ガンワクチン無料化を推進したのは、かつて永山が所属していた新興宗教団体・地球市民の会が支持する地球市民の党であったからだ。
永山とて決して無関係ではなかった。
インターネットでワクチンの副作用について議論されるサイトにおいて、永山は平林らと共にネット工作を仕掛けたことがあるのは既に述べた。




