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泣いた悪猿56
そこまで聞いた永山は
ユウコをきつく抱きしめた
壊れてしまわないか心配になるくらいに
強く強く抱きしめた
永山しばらく包容した後、ようやくユウコは泣き止んだ。
「ありがとうございます、トウジ将軍」
いつものおどけた笑顔が、ユウコに戻っていた。
「オレは……生まれつき……らしいが、ユウコもそうか?」
普通なら、たとえそれが気になったとしても言わないか、もしくは言いづらさを感じるだろう。永山も、まだその辺りは永山だ。
「……ううん。……あのね、子宮ガンのワクチンって知ってる?」
永山は首を横に振った。頭の良くない永山に、医療関係の知識は殆どない。
「行政がね、ワクチンを無料で摂取してくれるの。でも、そのワクチンに欠陥があったらしくて、運が悪いと不妊になっちゃうんだって。ツイてないなあ、本当に……」
ユウコは犬にでも噛まれたかのように、そうこぼした。おそらく、敢えてそのような言い方にしたのだろうと、永山にもわかった。運が悪かったで済ますにしては、あまりに悲惨な事だった。真っ正面から立ち向かうにしては重すぎる事だったからだ。




