泣いた悪猿51
前作を観たときは全く思わなかったことだが、映画の男の行動は永山とかなり似通っていると感じた。外見は毛ほども似ていない上、苛立つほどに晩稲な点も異なっている。が、周りの親切や彼女の想いに呆れるほど鈍感なところは、実に永山と同じだった。それだけに自省すべきものがあることも認めた。ユウコが前作からこの映画を楽しんでいたのは、まさにこの空想カップルと彼女自身を重ねたからに違いなかった。
おそらく、今の永山が前作を観たならば以前とは完全に違う感想を抱くだろう。凡百に過ぎないストーリーの中に、ユウコとトウジが共感しうる何かは確かにあったのだ。
紆余曲折を経て
女は病弱な体質を克服し
男はどうにか結婚式を挙げることができた。
「これが御都合主義ってやつか……」
永山は口先でそう言いつつ、内心では満足をしていた。このカップルが上手くいくなら、永山とユウコの物語にも希望が持てる……自分たちの直面する現実とは何の関係もない空想物語だと頭でわかっているのに、何となくそう思ったからだ。特に意味もなく、胸に熱い感情が込み上げてきた。
「……あれあれ?トウジ隊長、これは何ですか?」
おどけたユウコが永山の目尻に指で触れた。彼女の指の腹に、一滴の雫が乗っていた。




