泣いた悪猿⑤
「てっ!てめえ!いつの間に後ろに回った!!」
永山は醜態を隠すように叫んだ。が、殺戮者はそんなことはお構いなしにゆっくりと歩みを進めている。
頭一つ抜けた長身
長い黒髪
緑色のバンダナ
大きなサングラス
真っ黒なロングコート
奇妙な格好をした男が目の前に立ちはだかった。
見た目も奇妙だったが、もっと奇妙だったのは男から発せられた殺気だった。
肉薄してわかったことだが、男の発する気配の不気味さの正体が見えてきた。この男はたった一人なのに、まるで肉食獣の群れに狙われているような感覚に陥るのだ。見た目こそ人間だが、永山と同様に人外のものが変じている可能性が高い。
……いいや、本当に奇妙なのはそこではない。永山が敵対するミカドという集団は、人間の集まりだ。つまり人ならぬ者が混じっているとしたら、極めて不自然なのだ。
「てめえ……何者だ?」
永山は当初の目的を忘れ、疑問を口にした。
「これから滅されるものに、答えが必要か?」
男がさらりと放った言葉に、永山の下半身は再び漏水事故を起こした。忘れてはならないことを忘れようとしていた。永山は生命の危機にいるのだ。この男との“交渉”に失敗すれば、永山は間違いなく命を失うのだ。