泣いた悪猿45
それにしても、ユウコの不用心さには呆れたものだ。平林の口の巧さのせいもあるのだろうが、ただ永山の知り合いだというだけで初対面の男性を家に上げるとは何事だろうか。平林だからまだいいが、それこそ悪意ある退魔師だったらシャレでは済まない。マシラにだって、人間ごとき食い殺して構わないだろうという感性の持ち主はゴロゴロいるのだ。後でみっちり説教してやらないといけない、と永山は思った。
平林はちゃっかり夕飯まで共にした。永山の予想通り、昔の職場仲間という設定で平林はユウコに自己紹介をしていた。実際にはやったこともない営業職の話を平林が始めたときはドギマギさせられたが、宗教幹部だった頃の話と上手く噛み合わせてくれたので、ボロが出ることはなく楽しい夕餉の時を過ごした。
平林を駅までに送ると言い、永山はうすら寒い冬の夜道を二人連れ添って歩いた。平林が何をしにきたのか、真意を探るために。
「ぶっちゃけ、アナタを連れ戻せって言われたのよね、ワタクシ」
問い詰めるまでもなく平林は自白した。
「……鯨井さんか、カンキチ様か?」
おそらくはマシラ幹部の誰かの差し金なのだろうことを永山は予測した。平林は肯定も否定もしなかったが、実情は何となく予想がつく。




