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泣いた悪猿42
「……玄関の段差で……転んだんだ!」
空回りに終わった臨戦態勢を解きつつ、永山はわけのわからない言い訳でごまかした。
「平林こそ……今更何の用だ!?」
地球市民の会とは、幹部の役を干されて以来顔も出していない。この男との縁は切れたものと一方的に思っていた永山は、まさか自分を探しているのが平林だとは考えもしなかったのだ。
「今更、だからよ。アナタここのところ、ずっと……仲間のところに顔を見せてないでしょ。ワタクシ、心配だから見に来たのよ」
平林は憎いほど空気が読める。地球市民の会の名前を迂闊に出すような真似はしない。きっとユウコにも、昔の仕事仲間くらいに言っていることだろうと思うと安心できた。
「……とあれ、こんなカワイイ彼女さんと宜しくやってるようなら、それなりに上手くやってるみたいね」
平林の屈託のない笑顔に、永山はかえって面食らった。平林も熱心な信者という風はなかったが、教団に連れ戻そうというそぶりも無いのは却って不気味ですらあった。




