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泣いた悪猿41
「おかえり!」
幸か不幸か
ユウコは拍子抜けするほどに無事だった。
一瞬でも早く攻撃したい、と考えたことが正解だった。もしマシラの姿に変身しきってから出ていたら、取り返しのつかないことになっていただろう。ユウコの顔を見た瞬間に体を人間に戻すことで、彼女が変身しかけた永山の肉体を視認することはなかった。
ユウコが唐揚げの皿を置いたテーブルに、見知った顔の姿があった。
「永山さん……アナタ、何してるのよ?」
懐かしい顔が、唐揚げを箸で転がしていた。
平林芳明
永山と同じマシラの眷属だ。
カルト宗教・地球市民の会で知り合った仲間だ。人間とのコミュニケーションがやたら器用だが、それがかえって同朋らの不信を買ったらしく出世コースから外れている。
小柄なオカマ口調の男に変じているのは、彼なりの処世術らしい。可能な限り弱そうにしていた方が、人間たちは油断してくれて色々と上手く行きやすいというのが、この男の持論だ。
今とて初対面のはずのユウコと、あたかも友人のように卓を共にしているのだから、たいしたものだと言えるかもしれない。




