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泣いた悪猿④
再び踵を返した永山は、わざと殺戮者に近付いた。それは勇気を通り越して無謀とも言える試みだった。実際、目に涙を溜めながらも恐怖に立ち向かう形になった。いかにして相手の殺意を削ぐか、それだけを考えることに集中して恐怖から目を逸らした。そうでなければ、とても対峙することはかなわなかった。
(クソ野郎、来るなら来いよ……)
尿が漏れそうな恐怖を耐えながら、永山は殺戮者を迎えるべく裏路地で待ち構えた。主観的には堂々と仁王立ちしたつもりだが、客観的に見れば腰が引けている。普通に考えれば余命あと一時間もない状況で、歯の根も合わない有り様で敵を迎え撃つこととなった。
「お前のように潔い奴は珍しい」
背後から声がした時、永山はとうとう失禁してしまった。蛇口はすぐに閉めたものの、ジーンズについた漏水の痕跡は普通なら隠しようもないところだった。まさか臭い消し目的で行った渡河が、漏水隠蔽に繋がるとは予想だにしていなかった。
「だばぷぎべとあらんっ!!」
驚きのあまり永山は意味不明な言葉を羅列した。