泣いた悪猿37
「一旦、ジジイの配下になって、隙を見て寝首をかいてやるぜ。トウジ、てめえも異存ねえよな。加われ」
コウタの次の言葉は、予想の範囲内のことのはずだった。そして、その答えは当然のごとくYESであるはずだった。
にも関わらず、永山は答えることができなかった。答えられていない自分自身を認識するのに、数秒のタイムラグを要した。
“おう、やるぞ!”
なぜこの一言が出てこないのか、永山自身がわからなかった。一年前まで執心していた、邪鬼としての出世の道。下克上の中心に名を連ねることを、ずっと望んでいたはずなのに。今こそ耐えしのいできた苦労が報われようとしているのに。
「……待て。現実的に考えてみて、かなり厳しいぞ。あのクソジジイはただの老い耄れじゃねえ。雷神だなんて呼ばれてたのは昔話だけど、今だって普通じゃねえ強さなのは変わらねえ。オレたちが何匹か束になってかかればどうにかなる程度なら、とっくに取り巻きの連中あたりにヤられてる。いまだに偉そうにふんぞり返ってるのは伊達じゃねえと見るべきだ。やるなら誰か、強えアタマが必要だ。例えば……」
永山は思った。コウタの提案に素直に乗れないのは、現実的観点によるものに違いないのだと。例えばあの首俵のようなズバ抜けた力と知恵の持ち主でもいなければ、革命は成らないのだと。




