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泣いた悪猿34

「ユウコ、オレはああいう風に振る舞った方がいいのか?」

永山は聞いてみた。思い切って聞いてみたわけではない。通常の男なら躊躇する場面だが、人間の感性を持たない永山は意に介さない。


ユウコは涙を拭った。

「何で?トウジ君、あの人とそっくりにステキだよ」

ユウコは意外性に満ちた言葉を口にした。あんなナヨナヨした男とオレが、どこがどうそっくりだというのだろう?褒められている気が全くしない。文句の一つでも言いたくなったのだが、永山はそうしなかった。

ユウコが座椅子代わりにしていた永山に体重を預け、顔を首もとにうずめたからだ。

これが“求められている”サインであることを、永山は学習していた。本能に(そく)したことのみに関してのみ、永山は並みの人間以上の理解力を発揮するのだ。


(本当、わかんねえなあ)

二時間も食わされたお預けがようやく報われ、永山は“ご馳走”にありついた。

自分が人ならぬものとして相応しくない生き物に成り下がったことを自覚しながら。

去年までの、邪鬼として生きていた時代とは随分と変わってしまったことを自覚しながら。

そして、そんな自分に恥や後悔の念を微塵も抱いていないという事実に、少しだけ戸惑いながら。


ユウコの“良い人”を演じているうちに嘘が真実に時間をかけて近寄っていることを、永山は理解しつつも拒絶する気にはならなかった。

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