泣いた悪猿29
「……トウジ君、どうしたの?」
永山はユウコに指摘されるまで気付かなかった。自分が涙をこぼしていることに。
「トウジ君、やっぱどこか痛いの?隠すとか、やめてよ本当に……」
ユウコは相変わらず見当違いの心配ばかりするな、と永山は笑おうとした。笑おうとしたのに、次から次へと涙が止め処もなく流れた。笑おうとすればするほど、声は号泣へと勝手に変えられてしまう。
人ならぬ永山は百年以上生きていたが、泣いたことなどなかった。何かの病気の発作かと勘違いして、自分が泣いていることを認識するのに一拍の時を要した。
「違う……痛いのは、体じゃない。体じゃないんだ……」
近くに寄り傷を探そうと体を弄るユウコを、永山は抱きしめた。
「いやんトウジ君、いたあい。もっと優しくウ」
甘ったるい声を出してふざけるユウコを、永山は構わず力一杯抱きしめた。この世界で最も大切なものを手に入れた。どんなにたくさんの人間を食っても、どんなにたくさんの邪鬼を殺しても、手に入れたものはほんのちっぽけなものばかりだった。いや、たった一人の人間の女ごとき、手に入れてきたものの中でも極めて平凡な域に入るものだった。なのに、何の力も持たないたった一人の女が、どんな金銀財宝にも代え難い宝物だった。
男は言った。
“貴様の女が貴様の命綱だ”
その言葉はたった一面において過ちだった。
命綱どころか、命そのものだった




