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泣いた悪猿28
ユウコの表情に笑顔が戻った。自覚しているかどうか知らないが、いいとこ十人並みの風貌のユウコが持つ、唯一にして絶大の武器だ。天使を思わせるような、光の差したような無邪気な笑顔。この笑顔を失いたくない、ただそれだけのために永山が人喰いを断つほどの、光り輝くような笑顔なのだ。
その笑顔を見て和んだ永山に、突如インスピレーションが降って湧いた。
あの男が永山を生かした理由が、ようやくわかったのだ。
あの男は呪か何かで、ユウコのことを知ったのだ。ユウコが永山の前でどんな笑顔をするか、知ったのに違いない。
“貴様の女が貴様の命綱”
男の言ったことと、永山の出したこの結論は、パズルを嵌めたように合致していた。何の力もない、呪の心得はおろか霊的能力のカケラもない、ただの女。そんな彼女の笑顔が、あの怪物の中の怪物を惑わせたのだ。
彼女と面識すら無い男すら、この笑顔を曇らせたくないばかりに、仇であるはずの永山を殺せなかったのだ。それ以外の解釈の他に、永山には思いつかなかった。




