泣いた悪猿26
結局のところ永山は病院にも行かず、顔面の血を吹き絆創膏をいくつか貼っただけで夕飯を食べ始めた。
箸の扱いが下手くそな永山は、箸で唐揚げを刺して口に運ぶ。顔に擦り傷しかない割には血が多すぎるのでユウコは腹部等の傷を疑ったが、モリモリと唐揚げを口に放り込む様を見せられては黙る他ない。
実際は永山の肋骨は何本か折れていたが、マシラの自然治癒力をもってすれば数日で治るのだ。むしろユウコに無理矢理病院に連れられてしまった場合、大変なことになってしまうだろう。永山の変化術は医者の検査をごまかせるほど精密ではない。人間を診たつもりが猿の細胞が発見されるという事態が起きるだろう。
そもそも永山には、怪我のことなどどうでもよくなるほど、大いなる疑問を抱えていたのだ。治療の事など頭にもなかった。
どうして、あの男はトドメを刺さなかったのだろう?
それが気になって仕方がなかった。永山を許したわけでは全くないのは明らかだ。鍵となりそうなのは死神の残した最後の一言にあるような気がした。
“貴様の女は貴様の命綱だ”
男にとって、永山は殺すべき存在である。が、それをしなかったのは明らかにユウコのためだ




