泣いた悪猿23
「別に大したことじゃない。昔話のツケがほんのちょっと回っただけだ。ユウコには関係ない……」
「関係ないわけないでしょ!」
ユウコは鍋蓋を投げ捨てて、棚まで走り寄った。そこで、ウンウン唸りながら背伸びをし始めた。棚の上の救急箱に手を伸ばしていることに気付かない永山は、鍋蓋を拾って唐揚げをじっと見つめている。それが見様見真似で唐揚げを料理しようとしている姿であることに、ユウコは脚が吊る直前に気付いた。
「トウジ君は、どうしてそうなるかなあ!?」
ユウコが苛立った声をあげた。永山にはどうしてユウコが声を荒げるのかわからない。キッチンペーパーを濡らしたユウコに顔を拭かれているうちに、永山なりの結論を捻り出した。
「そうか。血が入ったら、唐揚げが台無しになってしまうな」
これでも永山なりに考えて出した答えだった。とはいえ当然、真っ当な人間の女性を絶望の淵に叩き込むには充分な破壊力があった。
「……あのさあ、トウジ君……もし私が怪我して帰ったら、どう思う?」
ユウコは永山の正体を、当然のように知らない。まさか悪名高いカルト宗教の元幹部で、そもそも人間ですらないとは夢にも思っていない。堅気の人間とは言い難い境遇を送ってきて、ユウコとの関係をきっかけに更正して普通にクラブの店員に収まったものと思い込んでいる。




