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泣いた悪猿22
永山の楽観は的中した。ドアノブを捻って目に入ったのは、玄関に置かれた一揃いの靴と、台所でいつも通りに唐揚げを料理するユウコの姿だった。長い黒髪が揺れる奥で、鍋の蓋が一緒に左右している。ユウコときたら油が跳ねるのがよほど怖いらしく、鍋蓋を盾にしながら防いでいるのだ。
「くっ……お前らの矢など、神器イージスの盾には効かぬわぁっ!」
いつものように跳ねる油を存在もしない敵に見立てて、独り芝居をしていた。
永山は大きな溜め息をついた。永山はようやく無事に家に着いたのだ。
「ユウコ曹長、戦況はまだ長引きそうか?」
心に余裕が出てきた永山は、ユウコの遊びに乗った。
「あわわっ!トウジ君、おかえり……って、どうしたのその顔!?」
ユウコはときどき永山には見当もつかないことを気にかけるが、このときもそうだった。確かに永山はあの死神に蹴られに蹴られたことで、口から吐いた血がこびりついていた。が、ユウコが痛めつけられ吐血したわけでもないのに、彼女が騒ぎ立てる理由が永山にはわからない。




