泣いた悪猿⑱
「そんなの、わかんねえよ。オレにだってわかんねえよ。でも、ユウコは待ってくれんだよ。何でかわかんねえけど、待ってんだよ。オレにだってどうしてなのか、わかんねえよ……」
永山は情けないくらいに涙を散らした。後悔や懺悔という概念を持つほどに、このマシラは賢くなかった。子供など食わなければこんなことにならなかったとは、発想すらなかった。ただ死の恐怖と、正体のわからない悲しみが永山の脳内を支配していた。
「……この、エテ公めがっ」
死神は悪態をつきながら永山の腹をもう一度蹴飛ばした。そして、しばらくの間が空いた。ああ、またあの刃物を袖口から取り出しているのだろうな、と永山は思った。最後にあと一度だけでいいからユウコの唐揚げを食べたかったと、そんなことが頭を過ぎった。
観念して目をつぶった永山だったが、最期の一撃は待てど来ない。不審に思い目を開けると、死神はトドメを差す用意をするどころか、背中を向けてこの場から去ろうとするところだった。
「……どうしてだ?」
永山は呻くように言葉を発した。
「どうして、オレにトドメを刺さない?オレは、一度は貴様を殺した一味なんだろ?オレは確かに高谷山で首俵さんと組んでた。お前はあんときの小僧なんだろ?どうやって生き延びたのか全然わからねえけど、それはもうどうでもいい。オレにトドメを刺さないのはどうしてだ?」




