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泣いた悪猿⑰
いつの間にか自分はこんなにも弱くなってしまった。ただ一人の女に、しかも同朋ですらない何の力も持たないたかが人間が、どうして自分を変えてしまったのだろうか?しかもそんな彼自身を情けなく思うこともできずに、ただただ女一人に会えなくなるそれだけが無念で仕方がないのだ。
「ユウコ……ユウコ……」
腹を何度も蹴られながら、永山は冷たいアスファルトの上に血反吐と愛する女の名を吐き出し続けた。死ぬことが怖くないくせに、死ぬことが嫌だった。矛盾だらけの感情が脳内を駆け巡るうちに、ふと気付いた。いつの間にか、腹に走る衝撃が止まっていた。
「……なぜだ……」
死神は憎々しげに声を漏らした。
「なぜ、お前のような奴に、待っている人間がいるんだ?答えろ!答えられなければ……」
何という無茶な質問だ、と永山は絶望した。切られた言葉の後に続くだろう文字に予想がついた永山は、改めて考えてみた。が、答えられることなど変わらなかった。




