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泣いた悪猿⑯
これから永山は筆舌に尽くしがたい陰惨な拷問を受け殺されるのだろう。それも恐ろしかったが、永山はむしろ死ぬことそのものが恐ろしかった。
「ユウコ……ごめん……ユウコ……」
殺されたらもう彼女に会えなくなる。精神的な痛みが、予測しうるどんなに苛烈な肉体的苦痛よりも堪えた。
「……ふざけるなっ!」
死神はもう一度、永山の腹を蹴った。肋の軋む感触とともに胃液が逆流した。だが、そんな痛みなどどうでも良かった。
永山自身は、どんなに酷い目に遭わされても自業自得だ。ユウコに会う前は平気で人間を殺して食っていた。それは牛や豚を食うのと同じ、罪悪感の欠片も抱かないごくごく自然な行為だった。いつかこんな日が来るかもしれないという覚悟はあった。人間の恨みを買い、狩る側から狩られる側に回る可能性があることを承知していた。
もし永山が一人の身であったなら、ほんの一年前までの人の姿を借りた一匹の獣であったなら、むしろ敵わぬまでもせめて一矢だけでも報いることに人外のものとしての誇りを見いだしただろう。そして、一片の悔いもなく圧倒的な力を前に生涯の幕を閉じられただろうに。




