泣いた悪猿⑭
首俵は特別な仲間だった。
おそらく、いや間違いなく、マシラ最強の男だった。綺麗な純白の毛並みが特徴の大猿で、剛力で知られるマシラのうちでも通常の三割増しの腕力の持ち主だ。だが永山が感嘆したのは何より、その頭の良さからくる読みの鋭さだった。首俵を相手どった敵は例外なく戦法をズバズバ読まれ、倒されていくのだ。
あるとき幾十もの天狗の群れに囲まれ、絶対絶命のピンチに陥ったことがある。が、首俵は悉く返り討ちにして全滅させてしまった。死骸の首を俵に詰めて天狗の長の元に運び、呆気にとられる大天狗に背を向けて悠々と帰って行った伝説を持つ。それが首俵という名前の由来である。
高谷山というのは全国でも有数の霊山であり、そこにある山寺には人間でもかなり霊的能力の高い僧侶が集っていた。
首俵は四匹のマシラを連れ、その僧侶たちを食う計画を立てていた。霊的能力の高い人間を食らえば邪鬼は力を増す。もし実現できれば、首俵と永山たちはかなりの力を得られただろう。
不運にも、首俵の計画は成らなかった。詳細は未だによくわからないが、山寺からたまたま出てきた小僧を捕まえ食ったのがケチのつき始め。食い殺したはずの小僧はどういう経緯か不明だが、永山たちが蹴散らしていた高谷山に棲まう魑魅魍魎の力を吸収し、生き延びたという。そして、僧侶たちの血肉を横取りしてしまったというのだ。永山たちが見たのは、既に食い荒らされた僧たちの亡骸だけだった。憤怒にかられた首俵が仲間の一匹を八つ当たりして殺したので、巻き添えを恐れた永山たちは解散せざるを得なかった。




