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泣いた悪猿⑬

謎は解けぬまま、男は永山の目の前から刃を退かせ、刃物を出したときと同じように右手首ごと袖の中に引っ込めた。再び手首が姿を現したとき、永山は違和感を覚えた。男の出した鉤爪状の武器は、明らかにコートの袖に隠せるはずがない大きさだったのだ。それこそ四次元ポケットでもない限り、物理的に有り得ない現象が目の前で起きていた。

(何なんだこいつは……?)

永山は気味が悪くなってきた。彼自身も世間で“怪物”と称される身であることは自覚していたが、この男は怪物の世界の常識すらも超越した存在にしか見えなかった。


男は腰が立たないままの永山を置いて、そのまま去るかのように見えたが

「……そういえば、聞きたいことが一つある」

男は返した踵をもう一度返した。

「お前らの仲間で“クビダワラ”というものがいるはずだが、今どこにいるか知っているか?」

その名前を聞いたとき、永山はえにもいわれぬ懐かしさに身が震えた。

「……ああ。あんた、首俵さんの知り合いかあ。高谷山以来だなあ……」

それは、永山が仲間内でも最も敬愛する名前だった。

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