楽器
「ねぇ、菅沼君ってギター弾ける?」
礼拝が終わった後、青年の門倉さんは、拓也君にそう聞いた。
「いいえ」
拓也君はそう言って首を横に振ったけど、
「でも、やってみる気はある?」
門倉さんにそう言われて、にこっとしながら頷いた。
すると、門倉さんは早速自分のベースを取り出して、
「あ、これはベース。でも、リードほど激しい動きはないからさ、初めてでも取っつきやすいと思うんだよな」
と、拓也君に握らせた。拓也君は目を輝かせて、左手を上下している。やった、食いついたと思ってあたしは嬉しかった。
だって、中高生ってなかなか教会には居着かないかないんだもん。小学生の時には渋々親について教会に付いてくる子どもたちも、中学になるとクラブの試合とかいろいろと理由を付けて礼拝に来なくなっちゃうことが多い。
確かに、小学生みたく礼拝中母子室でいさせてもらえず、大人の礼拝に半ば強制参加だっていうのがキツいというのはあるのだろうな。だから親たちは、子どもが中学までに信仰を持ってくれないかと必死で祈っているらしい。
そんな彼らを引き留める手段の一つが楽器だ。
「寺内さんも何か楽器演奏するんですか?」
適当にいくつか音を鳴らした後、拓也君はあたしにそう聞いた。
「あたし? あたしはキーボード」
礼拝での奏楽者は必要不可欠だからということで、教会員の子弟(とくに女の子)はピアノを習っている子が多い。あたしも、ピアノの先生をしている婦人に4才から教えてもらっている。
「へぇ、すごいですね」
4才からと聞いて、拓也君はびっくりしていた。はっきりいって最初は遊びだったけどね。でも、憧れる奏楽者はいっぱいいたから、結構まじめに練習したかな。
とりあえず、次の週にある音楽集会の参加を約束して拓也君は帰っていった。
あたしはその夜、拓也君が音楽集会に参加しますようにとお祈りした。
(一人でも多くの人が教会につながってほしいもんね)
祈りの合間に何故か自分で自分にそう言い聞かせながら。