プロローグ
お父さんが死んだのは高校三年生の春。だけどあたしはあまり泣かなかった。
悲しくなかったと言えば嘘になるけど、両親はあたしが赤ん坊の頃に離婚して、お母さんについたあたしは月に一回の『デート』以外会っていなかった、ううん、それどころか最後の方はその月一回もあたしがすっぽかしていたし。だから、死んだって言われても実感は沸かなかった。前夜式も葬送式もちゃんとやったし、斎場でお骨もちゃんと拾った。
でも、一緒に暮らしていなかったあたしとお母さんの日々は、お父さんが死んでも何にも変わることがなかったから、あたしは心のどこかでお父さんが死んだことを認めていなかっただけなのかもしれない。
そして、お父さんが死んだ次の次の週……
ジュニアクラスを終えて母子室を覗くと、隅っこにアイドルばりの可愛い男の子がいた。その子はあたしの顔を見ると、黙って首だけ下げたから、
「こんにちは、あたしは寺内明日美。あなたは?」
あたしも、そう言って首だけ下げる。
「ぼ、僕は菅沼拓也です」
そしたら、男の子はそう言ってもう一度頭を下げた。 菅沼って言えば、お父さんの前夜式から来ている、お父さんの同僚だっていう人の名字だ。
それにしても、アレはすごかったよね。
何って、その前夜式が終わったとき、綺麗なおばさんがお母さんに近づいて、お母さんの頬をぶったのよ。いきなりだったから最初、みんな何が起こったのかわからなかった。そして、その人はお母さんに向かって、
「人殺し、あんたが先輩を殺したのよ!」
って叫んだの。
その人-菅沼冴子さん-は、お父さんの大学時代の後輩。お父さんが好きで、追っかけて同じ会社に入ったっていう。
でも、お父さんが選んだのはその人じゃなくてお母さん。
娘のあたしには、お父さんがそんな魅力的な男性だとは思えなかったし、その前になんでお父さんがその美人を選ばないで、お母さんを選んだのか、謎なんだけどね。
なのに、お母さんはお父さんが冴子さんと浮気してると思いこんで離婚しちゃった。
要するに、ただただ意地っ張りなんだよなぁ、あの二人。娘から見ててももどかしいくらいお互いを思いやってるのにそれが表に出てこないんだもん。
もう本当に見てらんないから、こっちがお膳立てしてあげて、やっとまた顔を合わせられるようになってこれからって時だったのに、お父さんは突然死んじゃったんだよね。もっと早くに仲直りしてたら……ってあたしだって思う。
でも、お母さんはそれを『時』だと言い切った。そして、夫をとろうとしたその冴子さんに友達になろうと言ったのだ。
しかし、まさかそれでホントに菅沼さんが家族揃ってくるとはお母さん本人も夢にも思っていなかった違いない。
そしてそれに後々、あたしたちが関わっていくことになろうとは……
神様の導きはホント、不思議なことだらけだ。




