泣かなかった彼女
彼女はとても強い人だった。
だから私は、何故彼女が決して泣かないのかなんて、考えたこともなかったのだ。彼女は強い。だから泣かない。理由なんてそれだけで充分だと思っていた。
だからこそ、気付かなかった。彼女は泣かないのではない、泣くことができないのだということに。彼女はどれほど悲しくても泣きたいと思っても、決して涙を流すことができなかったのだ。
彼女はとても強い人だった。けれど同時に、とても脆い人でもあったのだ。
あの頃の私は、愚か過ぎて。そのことに、気付こうともしなかった――――――――。
彼女は勇者として召喚された存在だった。家族も友人もいないこの世界で、ただ強く戦っていた。いつだってやさしく笑っていた。だから誰一人気付かなかった。彼女の心が少しずつ疲弊し、壊れていったことに。
――――――――彼女が壊れ始めたのは、いつだったのだろう。
元の世界に帰る術がないと、知ってしまったときだろうか。
彼女とともに召喚された彼が、人間に殺されてしまったときだろうか。
それでも私は、彼女に幸せになってほしかった。もう一度笑ってほしかった。その為なら、何だってできると思っていた。
けれど。彼女は、もう、
いない。
だから。
さあ、はじめよう。彼女の願いはただひとつ。この世界に、復讐を。
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