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8.身


 「とりあえずメール送信っと」

 めんどくさかったな、と思いながら。

 「……あ。おいおい返信早いな」

 

【from】生徒会長 

【sub】RE:ども

【本文】 君の性格が良く分かる本文ありがとう^^

     これからよろしく

     私でよければ、いつでも力になるからね


 「……」

 なんなんだ?

 鞄を持って学校に行く準備をする。あぁ、なんだか最近な俺って超不憫。 

愚痴ってもしょうがないので学校に行けば、いつもへらへら笑っている友達グループがやって来た。俺は知ってる。仲良く笑いあっていても別の場所では、どうだかな。

 教室に入り、鞄を机の上に置く。

 「……おはよ」

 力なくへらっと笑う。

 「部活さー、俺辞めようと思うんだ」

 突如いつも適当で明るい良哉が元気なく言いだした。

 「サッカーだっけ?なんで?」

 「だってさ、俺どんなに頑張ったって、レギュラーになれないんだぜ?やる価値ないだろ?」

 「まだ一年じゃん、早くね?」

 「そうだよ、俺なんて帰宅部だぞ」 

 葉木ちゃんが横でソレは関係ないだろうと突っ込んだ。

 「良哉サッカー好きだったじゃねーか、もったいないよ。なぁ」

 俺に何を求めてるんだ? 

 適当に話をあわせるために相槌を打つと、良哉は首を横に振りすっかり絶望したと言わんばかりの様子だ。やめたければやめればいい。というのが俺の本音だが、そんなことは言わない。こういうやつは自分の欲しい言葉以外は聞き入れたりしないのだ。

 「頑張ればいけるだろ、なんで急にやめようと思ったんだ」

 「……小さい頃からサッカー塾やってたようなヤツがさ、多いんだよ」

 「あぁ」

 「趣味程度の俺じゃあいつら超えるなんてできねぇし、同じような状況なのに俺よりすげぇやつ、居るしさ……俺、本当運ねぇよ」

 「あら、本当にそうかしら」 

 俺らが振り返ると、綺麗なストレートな髪の毛を風になびかせながらその人は笑った。

 葉木ちゃんの顔がみるみるうちに真っ赤になっていき、俺の肩を触れた。力強い手のひらで肩を締め付けられて顔をゆがめる。オレは痛みに顔をゆがめながら後ろにいる生徒会長を見る。

 「ここいい?」

 そういって俺の横の席の椅子を指差し、返事を聞かないままそこに座り良哉のほうを向いてにっこりと微笑む。

 「話きいていたんすか」

 良哉がそういうと会長はうん。っとあっさりと認めた。

 「ごめんね。駄目だった?」

 「駄目も何も、ココ一年の教室っすよ」

 「いいじゃないの良哉!せっかくだから会長に助言聞いたら?」

 会長にここにいてほしい葉木はそういって良哉を宥めた。

 「ありがとう」

 会長はそう葉木に笑いかける。嬉しそうにデレデレに顔を緩める葉木の顔といったらもう見てられない。

 「俺は相談することなんてないね!」

 「あら?どうしてそう思うの?私のほうが少しだけれど年上だし、力になれると思うけれど?君の気持も分かるし」

 「嘘だね」

 「どうしてそう思うの?」

 「俺と、会長は違うから」

 良哉の言葉に何故か俺は反応してしまった。

 「違わないわ」

 会長の凛とした、確固たる意思のある返事。

 「違うだろ、会長は俺と違って何でもできる優等生で、悩みなんてなさそうじゃないか。俺の気持分かるわけないんだよ」

 俺の席から良哉は立ち上がると、自分の席に戻ろうと歩き出した。

 他人の気持なんて分からない。

 所詮他人なのだから。

 「……ふふふ」

 会長は笑った。

 「なにがおかしいんすか」

 良哉が睨むと会長は勝ち誇った顔を見せた。

 「……可笑しいわ。だって『俺の気持も分からないで』?『俺の辛さも知らないで』?ふふ……幸せなのに気づかず、悲観するなんてやっぱり可笑しい」

 「は?」

 「君は目標とする立場がいるのよ、ソレを喜ぶべきだわ。上がいるから人が努力するのよ。下に何を望むの?」

 会長は優雅に立ち上がると、良哉の目の前まで歩き。トンッ……とその心臓のある場所を突いた。

 「『趣味だけの俺じゃJrには勝てない』?どうしてそう思うの?どうしてそういう思考回路に行くか分かってる?」

 「……っ」

 「それはね君が今までしていたサッカーは本気じゃないからよ」

 チャイムが鳴る前に戻ってきた生徒が会長を見てざわつく。

 「本気じゃねってかよ!俺が今までやってきたサッカーは遊びって言うのか」

 「自分でそう言ったんじゃない。『趣味だけ』って」

 「くっ」

 「甘ったれてるんじゃないわよ」

 会長が言い放つ。

 「真剣な人間は、そんなこと思いもしないし、考えもしないわ。何もしていないヤツが運がないって諦めてるんじゃないわよ。いい?」

 顔を下げた良哉の顔をそっとあげた。

 「もし、チャンスがやってこなくても、いずれアナタが頑張った行いはどこかで報われるの」

 「あんたには、関係ないだろ」

 「無いわ」

 「だったら」

 

 「ムカつくのよ」

 

 心臓がトクンと高鳴った。

 良哉に向けてはなったはずの言葉が、俺に向けられたような気がした。


 「大人ぶった、諦めたような、何もかも分かったような態度したやつ……何もわかってないくせに」

 「は?」

 チャイムが鳴った。

 「あ、帰らなきゃ……じゃあね」

 さっきまでの凛とした顔ではなく、いつもの会長の微笑で一年の教室を去った。

 ……なんだったんだ?

 良哉は何も言わず胸を押さえてなにか感慨深そうにおもいふけっている。オレはそんな良哉を見ながら、複雑にもやもやするこの胸の感情をもてあましていた。 

 というか会長何しに来たんだ?

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