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27.途


 「もうすぐ卒業っすね」

 「そうね」

 俺は会長のマスターキーで屋上に来ていた。

 「アメリカっすか」

 「そうね」

 「卒業式したらそのままアメリカ行くんですよね、余韻もくそもないっすね」

 「そうね」

 どこか上の空の会長から目を離し、悠馬は日の沈みかけている太陽を見た。

 そもそも会長が俺を呼び出したときからもう無事で済むとは正直思っていない。なんど顔面を殴られたことやら

 「なんか悩みごとっすか」

 「そうね……」

 会長はフェンスにもたれると、ふうとため息をつき、上を見た。

 「私、ここで君に初めてあったとき……本気で殺そうと思ってたの」

 「えぇ、身をもって知ってますとも」

 殺されかけた身としてはね

 「狂ってたのかも」

 会長はそういって悲しそうな顔をした。

 「飛鳥が死んで、守れなくて……非力な自分を恨んで、でも死ぬ勇気が無くて、飛鳥が好きだったの。愛してるって散々言っていて、一人逝かせてしまったの。笑う?こんな私」

 「……あの飛鳥さんって」

 「女よ」

 「……」

 「そうよ。レズよ、悪い?」

 俺は会長ににらまれ目をそらす。

 「後追いしたかったけど、関係がばれるのが怖くて」

 「はぁ……複雑っすね。俺には理解できない」

 「でしょうね、ホモにでもなれば分かるんじゃない?」

 「いや結構です」

 俺は両手を振る。恋愛の仕方は人それぞれなんで

 「ふふ、冗談よ」

 会長は歩き出した。

 「私は抱えて生きていくわ」

 「なにをっすか」

 「飛鳥の死を、忘れるなんてできないもの」

 「はぁ、それならそれでいいんじゃないですか」

 「相変わらず他人に興味ないのね」

 「いや、そうでもないです」

 会長やエリスに会ってから考え方がずいぶん変わった気がする。まだ、戸惑っていることもあるが、最初とは違う

 「私、君に会えてよかったわ」

 「別れみたいですね」

 「実質別れよ、卒業式私でないから」

 「え」

 「一足先にアメリカ行くの」

 俺は驚いて口が開いていることにも気がつかなかった。

 「早くないっすか」

 「さびしい?」

 「いや、別に」

 ばきっと顔面殴られる。

 しまった。分かっていたのに無防備でいてしまった。エリスと同じ問いでも返す相手によってこうも違うのか

 「かわいくないわね」

 「そっくりそのままお返しします」

 鼻を押さえながら俺が言うと、彼女は微笑んで歩き出した。

 「君のおかげで決心ついたわ、ありがとう」

 階段を下りていく前に会長は振り返った。

 「私、君のことやっぱり嫌い!んじゃね」

 投げキッスをして去っていった彼女を見送りながら俺は鼻血が出てないか確認してから立った。今日はすがすがしい晴天だ。

 彼女たちもまた、先を憂い、先を望み、進んでいくのだろうなと俺は物思いにふける。

 あー、晴天を見ると楽しい気分になるねという幼馴染を思い出す。

「わー、きれいな空だね!こんな日は幸せな気分にならない?」

「!」

 横を見ると、いつの間にか緑が居た。

 「いつのまに」

 「ん?ついさっき、会長が屋上にいたの見えたから……また二人っきりで内緒話でもしてるのかなって」

 「してるのかなってことできたのかよ」

 「うん」

 即答かよ。

 あきれながらもフェンスにもたれてグランドを見る。ほとんどの生徒が下校していっている。

 「おぉ、良哉だ」

 会長に喝を入れられ、もう一度部活をがんばっているらしい良哉と目が合うと両手を振ってくれる。

 あの人も、なんだかんだいって会長らしいことはしてたからな、そこは尊敬できると思う。

 俺には最後の最後までひどかったが、これも思い出として……いや、忘れよう。覚えておくには顔が痛いからな

 「悠馬」

 「んー?」

 良哉の顔色が変わり何かを叫んでいた。だがここは屋上だ、聞こえるわけがない。

 「悠馬は、私のこと好き?」

 「は?」

 振り返ると出刃包丁を持った緑が居た。先ほどまでの輝かしい笑みは消えており、今はよどんだ目の色をしていた。

 「私は悠馬のこと好きだよ、悠馬は嫌いでも、好きなんだよ」

 「それと包丁の関係性が見えないんだが」

 「殻をつき壊すの」

 「は?殻?」

 緑は包丁を振り上げた。太陽にそれは反射して輝く

 「肉体という殻から魂を開放するの!」

 「殺すってことだろうが!」

 振り下ろされる包丁をよけながら悠馬は叫んだ。

 「落ち着け!犯罪者になるぞ」

 「悠馬と一緒にいたいの」

 「人の話聞けよ!」

 「会長にもエリス先輩にも、ほかの女にもあげない!渡さない!」

 「あの二人は関係ねぇよ!しかもここじゃない場所に去ったし!」

 「とられるぐらいなら!」

 「話を聞け!!」

 包丁を振り回す緑から逃げていると、教師を連れた良哉がやってきた。

 大人三人かがりで押さえつけようとしたが緑は暴れ、逃げ出し、フェンスの向こう側に立った。包丁をまだ俺の方へ向けながら

 矛盾した行為、だけども最悪の結果しか生み出さない哀しい行為。

 「悠馬は私の、……誰にもあげないんだから」

 「分かったから、こっちこい」

 俺は手を伸ばした。

 「渡さない。誰にも、誰にも、悠馬は私の」

 「分かった、俺はお前のだから、こっちこい」

 「悠馬にも渡さないんだから!」

 ……は?

 バランスを崩した緑が屋上から姿を消した。

 「緑!」

 無我夢中に何も判断できないまま空中へ飛び込んだ。

 悲鳴だけが聞こえる。

 緑をつかんでから後は、記憶は途切れた。

  

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