24.釣
「もう、お兄ちゃん。どいてよぉ!テレビ見えないじゃん」
ソファはいつも女どもが占領しているので、俺はせめての反抗にテレビの前に漫画本をもって座り込んでいた。
ちなみに親父も小さい声で「のいてあげてくれないか?」なんて小声で言っていたけど、小声だったし無視。
要の母は買い物だ。
「ちょっと、そこどけよ悠馬」
姉の紀子が携帯から目を離して怒ったように言った。妹があんまり五月蝿いので耐え切れなくなったのだろう。
俺は一言返事しただけで漫画に意識を集中させた。
「もー、お兄ちゃん!」
ずしっと背中が重くなった。
「重い」
「わー乙女に対してしつれーな」
妹が背中にのしかかってきたが、しょせん相手は小学生。別に平気だったので無視して本を読む。
「……」
静かになったと思い顔をあげると、頬を紅潮させた妹が居た。
それをみて逆に硬直する。
「おい、熱でもあるのか?」
「え?ち、ちがうよぉ?どうえっへっへっへ」
じゅるり、とよだれを拭く。というか笑い方キモイぞ……どうした。
「この漫画いいねぇ、いいねぇ、こっちが受けで、コッチが……ぐふふ」
「マジでどうした」
暴走気味な妹に鳥肌が立ったので、撤退することにした。ということで本を生贄に俺は脱退する!
「じゃあな」
テレビにはもう目もくれず、妹は漫画に飛びついていった。あんな熱血バトル漫画でよだれをたらす意味が分からん。
俺は部屋に戻って携帯を開くと、ダチからの遊びに行こうぜメールが三件来ていた。あいつら同じメール本文をわざわざあわせて同時送信してきやがったな。
「……」
最近鬱っぽくなってきたから、ここいらで若いもんらしく、遊びに行くのも悪くない。
立ち上がり、服を着替えメールの送信をする。
「どこにいくんだよ、結局」
メールの返信が返ってきた。
『みんなで青春しようぜ』
青春ねぇ
『学校に来い』
なんで学校だよ。
『タオルもってこいよ★』
なんか、怪しいな……まぁいい。断る理由もなく俺は黙って家を出て、だるい学校へと向かった。そして、すぐに後悔することとなった。
「やぁ、やぁ、やあ悠馬君。君も手伝ってくれるんだって?」
年配の教師、波田が逃亡を図ろうとした俺の腕を即座に掴んだ。ぎりぎりと強い握力で握られる。
(強いっっ!?てかいっつてぇ)
「おー、来たな悠馬」
ジャージ姿のダチの手には、抜いたばかりの草。
「さぁ、やるか!な!草むしり、な!」
その話方ウゼェ、てか手ぇ離せ。
「俺、用事あるんでしたわー」
「逃がすか!!」
メール送ってきた三人の友達は全員ぐるだった。首にタオル手に軍手、草むしりの必需品スコップまで持ってんじゃねーか!
「死なばもろとも」
「こいつらすっげーうぜぇぇ!!!」
友達ですらないわ!