22.壊
「なんで?何で、何で、何で、何で、何で、何で……何で!!!」
緑は机の上のものをすべて投げ捨てた。
「どぉして、私を見てくれないのよ!」
だんだん、机を叩く。
「馬鹿!馬鹿!ばかぁぁ。うわぁああああああああああ!!」
教科書をぶちまけ、布団を切り裂き、大事にしていたアニマルシリーズのぬいぐるみを壁に叩きつけ、全てをひっくり返した。何を投げても何を壊しても満足できない。
涙が、乾かない。声を上げても感情は止まらない。湧き上がる湖のように、噴火した火山のように、冷たく熱くもがいてもがいて暴れる。
(悠馬っ!)
ど う し て ?
「これまでずっと一緒にいたじゃない!ずっと世話してあげてたよ?ずっと私見てたんだよ!いつもいつも、小さい頃からずっと好きだった!一緒にいられると思ってた!!」
両親だって、いつか二人は夫婦になるんだろうねって、笑ってた。
みんなだって、そうなるって思ってた。
「私だってッッ!!」
一緒になる運命だと思ってた。望んでいたことだった。……なのに!
「うわあああああああああ」
椅子を持ち上げ床に叩きつける。
「どうしてよぉぉ!どうして見てくれないの?どうして笑ってくれないの??ねぇ?どうして」
これまでの私は一体なんだったの?
悠馬にとって私はなんだったの?
「うわぁぁ、うわぁあああああああ」
「緑!?」
両親が入ってきた。
どうしようもなく、うざいっ!
「うわあああああああああ!!」
ぼこぼこになった椅子を投げつけた。
「来るな来るな来るな来るな、来るなぁあああああああああ!!」
「きゃあああ!?」
「やめないか、緑!」
傷ついたものは戻らない。
「あああああああああ」
涙が止まらない。あぁぁ。もう本当に分からない。
「助けてよぉ、ねぇ?お父さんでしょ?お母さんでしょ?・・娘が苦しんでんだよ!助けろよぉォおおおおおおおああああああああああああ!!!」
机を投げ飛ばす。大好きだった両親がとてもうっとおしく感じる。
「み、みどり・・何があったんだ」
「何もないから、苦しいの!!そんなことも分からないなら出て行けよ!!!」
悠馬の中に私なんて、無かった。これっぽっちも。あぁ、もう本当
「死にたい……っ」
恥かしいよ。悲しいよ。苦しいし、辛いよぉ本当馬鹿みたい私
(なんで、まだ好きなの……?)
いっそ嫌いになれば、清々しいのに。
「好きなのに報われない、可哀想な乙女」
「誰!」
扉には頭を守る両親と、金持ちしか通えない制服を着た少年が居た。
「いやね、外を歩いてたらスゴイ音が聞こえたから、お邪魔してみた」
人懐っこい笑みで今更「おじゃまします」といった。
「あんたに……何が分かるの?」
「ボクはただ、助言をしようかなって」
「助言?」
少年は微笑んだ。
「彼に君の言葉は思いは届かない」
「知ってるよ、だから何?諦めろって?」
「何故、諦めるんだ?」
少年は緑の目の前まで行くと、座った。
「開放するんだ」
「……か、いほう?」
「そう、彼の心は殻にこもっている。その殻を壊してしまうんだ。そうしたら彼は君のものだ」
「私のもの……」
ツウッと涙が一滴頬を伝う。
「き、君は誰かな……?」
恐る恐る父親が話しかけると、少年は立ち上がった。
「進みましょう。一歩でも前へ。そうすればアナタの望むものが手に入ります」
「どうやって……?」
「行動に示すのです、あなたの心をモノに表せ彼へ届かせる」
「そうすれば?」
「彼はあなたのもの、あなただけのもの」
口が笑う。
彼はそれをみて満足そうに微笑んだ。
「おじゃましました」
ひどく、歪んだ笑みだった。
「人の心ほど、扱いやすく、脆く、面白いものはないな」
そういった彼の言葉は空気に溶けて消えた。