20.殻
俺は、俺だ。
他人に自分の人生に介入されるのがイヤだった。なんで他人の人生に責任を持たなきゃいけないのか……分からないし、イヤだった。今もそう思っている。
誰かの行動一つ一つに気を配り、考えなきゃいけないなんて、生きてるなんて言えないじゃないか
「……」
でも、なんで、こんなに
「ふっ、うぅっ」
こんなに悲しいんだろう。なんでこんなにも心細く寂しい気持になるんだろう。
女は嫌いだ。もう、嫌いだ。
(あいつらのせいでもう、めちゃくちゃだ……)
俺を支えていた事実が脆く。ひびだらけだ。いや、はじめから崩れていたのだろうが、なんという
「うぅ、ううう、うっっうう」
なんで、こんなに涙が出るんだろう。なんという情けなさ
こんこん。
「悠馬?大丈夫?」
姉の心配そうな声が聞こえる。
「お隣の緑ちゃんと喧嘩でもしたの?」
(ほっといてくれ)
声が出ない。
どうしようもない虚無とけだるさに襲われながら、ベットに横になったまま天上を見上げた。そして、ふと気になって窓のほうに目を向けた。
「……」
緑、俺が泣かせた。
「あんた男でしょ?男女間で喧嘩したら男から謝るもんよ!」
ドアの鍵を閉めていてよかった。悠馬の部屋の扉をあけようとドアノブを鳴らす音に耳を塞ぎながらそう思った。
「逃げてんじゃないわよ」
姉の静かな重い声が聞こえた。
「自分だけが不幸って思ってんじゃないわよ!下ばっか向いて!上を見たことあんのか!」
「お姉ちゃん」
妹のか弱い声が聞こえた。
「この世はね!楽しんだもの勝ちなのよ!そんなんも知らないの!」
(それはアンタの価値観だろう)
なおも扉を叩く姉にうんざりしながら、カーテンを閉めようと立ち上がる。わめく姉の声は不思議と耳を通り過ぎていく。タダの煩い雑音にしか聞こえない。意味を成さぬ言葉に、耳は拒絶の一択しかない。
「聞いてんのか!てか生きてる!?」
カーテンを手にとって、ふとお隣の窓を見る。
いつもはうっとおしいアニマルカーテンに光が灯っているが、今は此方と同じく暗い。いつも感じる人の気配というものを感じない。
俺が、緑を傷つけた。
こんこん、ノックが聞こえた。
「こんにちわ。悠馬君」
さっきまでの怒号とはうって違った明るい声。この声は聞き覚えのある……そう、エリスの声だった。
「ちょっといいかな?」
俺は、小さく溜息つくとカーテンを閉めた。
あれから俺は学校を三日も休んだ。それで、なにか言いに来たのだろうか……。
「おーい?悠馬きいてんのか!開けなさい」
姉の声が聞こえた。
「いいんです、ここで」
エリスのいい子ぶった声が聞こえて、いらっとした。
誰のせいでこうなっているのか……。お前なんか呼ぶんじゃなかったとわめき散らしたい感情を抑え、ベットに再びもぐる。
エリスの空咳と、息を吸う音が聞こえた。
「?」
「……このっ臆病者ぉぉおおおっ!!!」
がん!!!扉が振動した。
「ばーかばーか!!へタレ!!臆病者!!悔しかったら言い返して来い!」
……餓鬼か。
「逃げてんじゃないよ」
「お前のせいだろう!!」
扉に向けて叫んだ。
「おまえらが俺の中をめちゃくちゃにしたんだろう!どうしてくれんだ!責任取れよ!」
イライラが絶頂に達した。
「考えるなって、考えるなっていわれても、逆に意識するだろうが!何気なく考えることの何が悪いんだ!自分のやり方を押し付けてくるな!!人間は考えてなんぼだろうが!!くそがっ」
「……」
「いい加減にしてくれ。俺のことはもう」
「分かったわ」
エリスの声が聞こえるとともに、扉が破壊された。
はじめて扉が俺の部屋に入ってきた。オレは状況を全く理解できず、口を開けたまま放置
「……な」
エリスは胸を踏ん反り帰らせて勝ち誇った笑みを見せた。
「じゃ、責任とってあげる」
「その前に扉を直せ!!!」
エリスは走ったと思ったら俺の懐に飛び込んできた。
「結婚しましょう!!!」
「……」
「……」
姉と妹が固まった。
「はぁぁぁあああああああああああ!!!??」