19.迷
「エリス先輩」
彼女はフェンスに座ったままいつものように微笑んでいた。その余裕ぶった顔が気にいらなかったのだろう、会長は舌打ちをした。
「何よ、あんた。後から来て話をややこしくして」
「それは同感」
二人で八つ当たりといってもいい感情でエリスを責める様に言いつめると、彼女は鼻で笑って流した。
「同じことだよ」
「え?」
「前後なんて関係ないよ、同じことなのに、どうして気がつかないのかな?」
「同じこと?」
「『死にたくないけど嫌いだから殺したい君』と『死にたいけど死ねないから殺したい会長。』ほら、微妙に違うだけで同じ。過程が違うだけで結果は同じじゃん」
「適当なこと言って!私は死にたいだなんておもったことないわ!」
「へぇ」
エリスは全くどうでもよさそうに返事をした。
「メンドクサイね、会長は気がついていないふりをいつまでするの?」
「っ」
「大事な人が死んで、自分のせいだと責めて、他人を憎んで……自分も憎んでる。それって彼と何が違うのかな?同じだよね?うちはそう思う」
会長は何も言わず、拳を握り締めたまま黙った。
(うわぁ)
こんなときになんだけど、なんだろう、こういう感情なんっていうんだっけ?あ、そうだこの感情……はあれだ。
同族嫌悪か……。
今の会長見てると意味もなくイライラする。なるほど、むこうも同じ気持だったのか。
「てかさ」
エリスはおかしなものを見るような目で俺達を見た。
「君達、馬鹿なの?」
「え?」
「会長じゃないけど、何様?」
「なんでそこで私よ」
エリスはフェンスを越えた。俺が初めて会長とであったときと全く同じポジション。
「最後のもう一歩……君ら踏める?」
俺は踏めなかった。おそらく会長も、きっと踏めない。
「私は踏めない」
エリスはそういうとバック転で内側に戻ってきた。
「今生きてるってさ、考えて生きてる人少ないよ。生きてるって考えて、なにが変わるの?変わらないでしょ?だから考えない必要なときに考えたらいい」
「必要なときっていつだよ」
「知らない」
エリスはそのまま歩き出した。
「死ぬ直前にでも考えたら?」
そういって拳で俺の心臓を軽く殴った。
「答えは自分で出すもんなんじゃないの」
そういって彼女は階段を下っていった。
「あ、そうだ」
振り返った。
「会長さん、たまには馬鹿になったほうがいいよ」
ソレだけ言って手をひらひらさせて去っていった。
俺は
……俺はなんで彼女を呼んだんだろう。
なんて、いまさら考えていた。むしろ、今回のことで、俺は、何が変わったんだろう?
「……くそっ」
彼女の言うとおり、同じことだったのかもしれない。
俺が俺に執着し、嫌悪しているかぎり、何も変わらないのかもしれない。だとしたら、俺はどうすればいいんだ?
「はは……あれ?」
はははは。俺、生きたいんだっけ?死にたいんだっけ?何が何だかもう分からなくなった。