12.君
うざい。すっげーうざい。もう超うざいんだわ……何がうざいかって?
「うううぅ、うっう~」
こいつ。
「おい、木村何泣いてんだ」
「みどり~~」
いちいちうぜぇな。
「みどりさん」
頭をこつこつとシャーペンでつつく。たくっ人がせっかく珍しく勉強しようとしたらこうだもんな。
「部活まだ終わってる時間じゃねーじゃん?お前が部活抜けるなんて珍しいな、なんかあったのか?」
ぶっちゃけ理由とかどうでもいいんで、泣くなら自分の家で泣いてください。そして泣きつくなら自分のママンの胸の中で泣いて来てくれ。ダディでも可。
「ばかぁ、嫌い嫌いー」
俺に対する挑戦か?
「うぅぅわぁぁん」
コンコン。
「騒がしいわよー」
紀子姉が俺の返事も待たずに部屋に入ってきて口を押さえた。
「お楽しみだった?」
「コレを見てどうしてそうおもえるんだ発情女」
「あんだとごるぁ!?」
わんわんコイツが泣いてくれたおかげで俺のジャージがなんだか温いような冷たいような温度で濡れていく。もう絶対捨てようこのジャージ。
「なんで泣いてるの緑ちゃん。馬鹿に泣かされた?」
「うぅぅ~」
首をふるのはいいけど人の腹ぐりぐりすんな。気持ち悪いし何気なく痛いんだよ。
「じゃなんで泣いてるんだ」
緑は顔をやっと上げた。
「ひっく。ひっく」
だからなんだ。俺をそんな汚い顔で見るんじゃない
「悠馬に言えない」
「じゃあ出て行け今すぐ」
姉貴にスリッパで叩かれた。何故だ。俺は間違っていないはずだ。
「緑ちゃん、私になら話せる?」
姉貴が優しくそういうと緑は小さく頷く。なんでだろう、理不尽でならないのは俺だけだろうか。いや、ここに第三者がいたらきっと俺に同情することだろう。
「じゃあ下行きましょうか」
「そうしてくれ」
これでは集中できないどころか、オレにはプライパシーすらないのか。
「悠馬」
出て行く前に緑は振り返った。
「ごめんね」
そういって去っていった。
「……ふー」
やる気なくしたので教科書を棚に戻す。
「……」
机の上にある携帯に手を伸ばし、コールをかけた。意味なんてない。察したわけでもない。ただなんとなく、この人が関わっているような気がしたからだ。
「あ、もしもし、会長すか?少し聞きたいことあるんですわ」
俺は開けっ放しだった窓と扉を閉めた。
「緑泣かせたの。あんただろ」
聞かせてもらおうか?
理由を。