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むかし、冬が終わらない谷がありました。

雪は灰のように積もり、

人の言葉さえ凍りつく土地。


そこに、炎を生む魔法使いが住んでいました。

彼の炎は、触れれば火傷を負い、

使えば使うほど、彼自身を焼きました。


だから人々は近づきませんでした。

炎は怖く、魔法使いもまた、怖かったのです。


彼は谷の奥でひとり、

毎晩、小さな火を灯しました。

村まで届かぬ光、

誰も見ない熱。


それでも彼は、火を消しませんでした。

「誰かが、いつか凍える夜に迷い込むかもしれない」


ある夜、本当にひとりの旅人が倒れました。

息は白く、手は氷のよう。

魔法使いはためらいながらも、炎を大きくしました。


炎は旅人を温め、

同時に魔法使いの腕を焼きました。

皮膚は裂け、痛みが走り、

それでも彼は火を止めませんでした。


夜明け、旅人は目を覚まし、

魔法使いの腕を見て、泣きました。

「どうして、そこまで……」


魔法使いは笑いました。

「炎は、分けると痛い。でも、分けないと寒いままだ」


その日から、谷の冬は少しずつ溶けていきました。

人々は火を怖れなくなり、

火を囲んで語り合うようになりました。


魔法使いは、ある朝、姿を消しました。

谷の中央には、大きな炉が残り、

炎は今も消えずに燃えています。


その火に手をかざすと、

あたたかさの奥に、

誰かの痛みが、かすかに伝わるのだそうです。


それが、炎の魔法。

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