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むかし、世界のどこかに

一度入ったら、同じ場所には二度と戻れない道がありました。


その道に足を踏み入れると、

後ろを振り返った瞬間に景色が変わり、

記憶の中の道だけが、帰り道になります。


そこを歩いていたのは、

年老いた魔法使いでした。

彼は若い頃、選ばなかった人生の数だけ後悔を抱え、

それを確かめるために、この道へ入ったのです。


「もし、あの時ちがう道を選んでいたら…」


一歩進むたび、道の脇に扉が現れました。

扉の向こうには、

別の選択をした自分の人生が見えます。


王になった自分。

誰かを救えなかった自分。

誰かと生きた自分。

誰も知らない自分。


魔法使いは扉に手を伸ばしかけ、何度もやめました。

どれも本物で、どれも遠すぎたからです。


やがて彼は、歩けなくなり、道の真ん中に座り込みました。

すると、道が初めて話しかけてきました。


「なぜ迷う?」


魔法使いは答えました。

「選ばなかった道が、重すぎる」


道は静かに言いました。

「選ばなかった道は、重いままでいい。

だが、選んだ道を軽くするのは、お前だけだ」


その言葉に、魔法使いは涙を流しました。

そして初めて、扉を閉じ、前を向いたのです。


すると道は、ゆっくりとまっすぐになりました。

後悔は消えません。

でも、足取りは軽くなりました。


その後、彼を見た者はいません。

けれど言い伝えでは、

誰かが「もう遅いかもしれない」と思った瞬間、

道の霧が少しだけ晴れるのだそうです。


それが、迷い道の魔法。

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