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むかし、夜空と地上のあいだがまだ近かったころ。
星の光は言葉を持ち、月は子守歌を歌っていました。
その世界の片隅に、「忘れられた願い」を集める湖がありました。
誰にも言えなかった願い、胸の奥にしまった夢、叶わなかった約束。
それらは光の雫となって、静かに湖へ落ちていくのです。
湖のほとりには、白いマントを羽織った小さな少女が住んでいました。
少女は魔法使いではありません。
ただ、湖に落ちた光をすくい上げ、星へ返す役目を持っていました。
毎晩、少女が湖面に手を伸ばすと、
光はやさしく揺れ、まるで「ありがとう」と言うように指先へ集まります。
それを空へ放つと、星がひとつ、またひとつと瞬くのです。
ある夜、ひとつだけ、どうしても空へ戻らない光がありました。
それはとても弱く、冷たく、泣いているようでした。
少女は胸に抱いて、そっと聞きました。
「どうして泣いているの?」
光は震えながら答えました。
「誰かに、忘れられてしまったんだ」
少女は微笑み、湖のほとりに小さな灯りをともしました。
「じゃあ、ここにいよう。忘れない場所を作ればいい」
その夜から、湖のそばには小さな家がひとつ増え、
忘れられた願いは、星にならなくても居場所を持てるようになりました。
そして不思議なことに、
その灯りを見た人は、理由もなく少しだけ前を向けたのです。
願いは叶わなくても、
消えずに誰かのそばに在ることが、
それ自体ひとつの魔法だったのかもしれません。




