我が君に愛を誓う
宮殿を脱出して。
ヒースクリフとオーレイアが身を隠したのは、場末の連れ込み宿であった。
ヒースクリフの生家は教会とのしがらみがあり、聖騎士であるヒースクリフは法王直属の騎士団長なのである。
教会勢力と無関係な宿となると、思いつくのは後ろ暗い連れ込み宿くらいだった。
ヒースクリフはこの中央都市ではそこそこ名のしれた騎士団長なので、顔を見られずに入室できる仕組みは正直助かった。
そう、ヒースクリフとしてはオーレイアを狙った暗殺者の飼い主として、貴族はもちろん、聖女を担ぎ上げているはずの教会関係者をも疑っているのである。
古びたソファーにオーレイアを座らせ、自身はその隣に腰を降ろすヒースクリフ。
見た目通りの筋肉質な重量感にソファーが悲鳴をあげたが、ヒースクリフはオーレイアとの密着を優先させた。
心配そうに、オーレイアの顔を覗き込んで尋ねる。
「なぁ、オーレイア。お前に暗殺者を差し向ける相手に心当たりなんて、……まぁ、或る訳はないわな。」
ヒースクリフは顎をさすりながら首をひねる。
暫く考え込むように黙っていたオーレイアは、考えを振り切るかのようにぷるぷると首を降るかと思いきや、おもむろに立ち上がって。
真剣な目で、ヒースクリフに確認した。
「ねぇ、ヒースクリフ。」
「ん?」
「騎士団長っていう立派な地位も安定した暮らしも、家族も、何もかも捨ててまで、私を信じて、一緒にいてくれる?」
冗談などではないと、その真剣さから、ヒースクリフはもちろん理解していた。
オーレイアの華奢な脚は緊張からか微かに震え、
丸みを帯びた頬は紅潮している。
場違いな感想ではあるが、ああ、可愛いな。と、ヒースクリフは思った。
オーレイアのそれは、今日出逢ったばかりの、まだ一時間も供に時を過ごしていない相手に言う台詞ではない。
だが、そんなくだらないことは、最早どうでも良かった。
「つまりあれか、駆け落ちする覚悟はあるかってことか?」
ヒースクリフは、オーレイアの緊張を解すように、茶化すように、余裕綽々な笑みを浮かべた。
「はっ!なめんなよ。惚れた女を信じないで、何が騎士だ。」
サファイアを彷彿とさせる冷たいアイスブルーの瞳に、獰猛な肉食獣のような情慾が宿り、ヒースクリフは、オーレイアの緊張から固く握られた手を取った。
そして、ゆっくりと跪くと、その手のひらに強く唇を押し当てた。
「俺の剣は信仰にじゃない、惚れた女に捧げるって決めてたんだよ。」
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本作は短編「視線の行方」と登場人物が繋がっているので気が向いたらぜひご覧ください。




