閃く刃
女は度胸とばかりに、オーレイアが人生初めてのキスをしようと腹を括りかけたその次の瞬間、
「っ!」
色ボケしていたヒースクリフは、がばりと屈んでいた身を起こし、腰の剣を引き抜いた。
複数の隠しきれない殺気が、バルコニーの柵の上からオーレイアに突き刺さる。
二階にあるバルコニーの上の階から影が飛び降り、バルコニーの柵のあたりに着地した。
黒尽めの性別不明の影が二人、片方は短刀、片方は短刀より小振りなナイフを両手持ちにして、床を滑るような素早さで、襲いかかってきた。
隠すのを止めた殺気の行き着く先は、オーレイア。
一人目が投げたナイフの切っ先がオーレイアに届く前に、ヒースクリフが一閃した剣の風圧で、ナイフは弾け飛ぶ。
続投とばかりに駆け寄る暗殺者の短刀を、キンっと高い金属音を響かせながら一度受け止め、すぐさま暗殺者を一太刀の下に切り伏せた。
ヒースクリフも暗殺者も、互いに一言も発さない。
油断なく剣を構えるヒースクリフと対峙しながら、一人目が倒れてもなんの反応もせす、よく訓練された暗殺者はまだ隠し持っていたナイフを数本、袖口から手のひらに移動させた。
ヒースクリフが二人目の暗殺者を切り殺す前に、毒で塗らめくナイフでオーレイアにかすり傷さえ負わせれば、目的は達成されるのだ。
ヒースクリフは派手な動作はせず、暗殺者を切り捨てる。
暗殺者は、血飛沫をあげながらも、最後の力で剣で叩き落としにくい床ぎりぎりの位置を狙って、オーレイアの足元を的にしてナイフを飛ばした。
だが、ヒースクリフは驚異的な素早さで剣を逆手に持ち、振り払うような動きで、ナイフを全て叩き落とした。
どさり、と最後の暗殺者が地に倒れ伏す。
辺りを包む静寂、そして血の匂い。
次の襲撃がないか、ヒースクリフは油断なく辺りの気配を探り、暫くして剣を収めた。
「大丈夫か?オーレイア。」
ヒースクリフはようやく、オーレイアを気遣うように振り向いた。
暗殺者を切り殺す冷静な表情から一変し、心配そうに眉を顰めている。
「ヒ、ヒースクリフ、」
オーレイアは辺境にいたとはいえ、ただの村娘だ。
血なまぐさい戦闘など体験したこともない。
殺気に怯え、戦闘中は逃げることさえ出来ず、微動だに出来なかった。
そして、ヒースクリフの顔を見て安堵したのか、腰を抜かした。
「気絶しなかっただけ、まだ根性あるさ。」
貴族令嬢ならば、最初の殺気の時点で気絶している。とヒースクリフは何も出来なかった自分を責めるオーレイアを慰めた。
剣と短刀が切り結んだ金属音に気づいた今日の夜会警備担当の騎士達が駆けつけた頃には、ヒースクリフはオーレイアを連れてバルコニーから姿を消していた。
向こうはプロだ、暗殺者の身元は調べても何も出てこない。
ならば長居は無駄とばかりに、ヒースクリフはオーレイアを騎士服から外したマントで包み、抱き上げて、二階にあるバルコニーから庭先へ飛び降りた。
幸いなことに、バルコニーの騒ぎが陽動となり、庭先に警備の人員は一人もおらず、ヒースクリフは頭の中の宮殿の地図から警邏順路を推測して、見事宮殿から脱出した。
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本作は短編「視線の行方」と登場人物が繋がっているので気が向いたらぜひご覧ください。




