クンツァイトの瞳
「……ねぇ、でも数年で中央に戻ってその若さで聖騎士団長って、騎士団長様はその、」
「ヒースクリフ。」
「え?」
「ヒースクリフ・ネソス。騎士団長様はやめろよ。ヒースクリフでいい。」
男は急に勢いを失ったオーレイアの言わんとするところを察し、敢えてその言葉を遮った。
「ネソスって、まさか侯爵家の?」
「そう。それ。」
ヒースクリフは、自身が貴族出身なことを敢えて黙っておくつもりはなかった。
だが、オーレイアの困ったような、気遅れしたような態度には胸の痛みを覚えてしまう。
出逢ったばかりだと言うのに、まさか一回り以上も離れた年下の少女に、いい歳した大人の自分が惹かれてるとでも言うのか。
「なぁ、名前を呼んでくれよ。」
それだけでいい。
オーレイアの小鳥が囀るような可愛い声で名前を呼ばれたら、なんでも許してやりたい気持ちにさせられるだろう。
「えっと、……ヒースクリフ、さん。」
「さんは要らない。」
「……ヒ、ヒースクリフ。」
躊躇うように、恥じらいを含んだ声色でオーレイアに名を呼ばれて、ヒースクリフの胸が高鳴った。
妖精のような華奢な体躯は、がっちりとした筋肉質な体を持つヒースクリフが軽く抱きしめただけで、折れてしまいそうだ。
可愛い、護ってやりたいな。
ふと気がつくとそんな想いが込み上げてきた。
「オーレイア。」
オーレイアは、じっと自分の名前を呼ぶヒースクリフをこぼれそうな大きな瞳で見つめてきた。
吸い込まれそうな、ラベンダー色のクンツァイトのような瞳。
視線を逸したら負ける気がして、子供っぽい意地が頭をもたげて、ヒースクリフも無言で見つめ返す。
なんだこれ、可愛いが過ぎるんじゃないか。
ついデレデレと崩れそうな顔面を、ヒースクリフは男の意地で涼しい顔として保っていた。
暫く見つめ合って、うん、と何かを確信するように、嬉しそうにオーレイアは頷く。
その小さな唇は、見つけた、と動いていた。
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本作は短編「視線の行方」と登場人物が繋がっているので気が向いたらぜひご覧ください。




