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不良聖騎士

 世話役の枢機卿を探す為に壁際に移動したオーレイアは、外に繋がる空気の流れを感じて、惹かれるようにふらふらとバルコニーへと繋がる扉へと向かう。

 外の空気を吸って息苦しさを宥めたかった。


 幸い、バルコニーには人影が一人しかいない。

 近づくに連れ、随分と背の高い人物だと気づく。

 背も高いし、体にもがっちりとした厚みがある。

 まるでぎりぎりまで精錬して引き絞った、しなやかな鋼のような体躯から見て、騎士様であろうか、とオーレイアは警戒を緩めた。


 向こうはオーレイアが扉を開けた時から接近に気づいていたのだろう。

 微かに度数の強そうなアルコールの香りがしたが、酒瓶やグラスの類いは上手く隠したのか見当たらなかった。


「休憩するならこっちだ、聖女サマ。」


 にやりと悪戯っぽく笑って手招きするのは、部分的に白銀を取り入れた黒い騎士服を纏った男だった。

 年頃は20代後半である辺境の司教より同じか、やや下であろうか。

 左胸には星章をつけ、右肩から左脇に掛けて大綬をかけている。

 奇しくも、そのリボンの色はオーレイアのクンツァイトを彷彿とさせるラベンダー色であった

 宗教国にも騎士団は複数あって、この騎士服は教皇直属の聖騎士団に該当するが、オーレイアには他の騎士団との見分けがつかなかった。

 しかし、礼儀作法の一環である教養の授業でこの勲章の意味は知っていた。


「勤務中ならあんまりよろしくないんじゃないですの?聖騎士団長様。」

「おっ、言うねぇ、聖女サマ。でも残念ながら今は勤務時間じゃないんだ。

こんなかったるい夜会なんざ、飲まなきゃやってらんねぇのさ。」


 にや、と笑う聖騎士団長と思われる男は、オーレイアの指摘を否定しなかった。

 聖女サマ、の様の響きが揶揄するようで、オーレイアは思わずむぅ、と頬を膨らませた。


「馬鹿にしてます?」


 幾ら辺境出身の平民出の聖女だからって、揶揄される言われはない。

 オーレイアは故郷を気に入っているし、平民であることで劣等感を抱いたこともない。

 辺境で育ったのんびりぼんやりとした性格は、裏を返せば神経が図太いとも言えた。


「へぇ、辺境から来た聖女って言うからどんなもんかと思ってたが、矜持はあるんだな。見直したぜ。」


 オーレイアのむくれるような反応を面白がって、騎士団長はますますからかいの色を強めた。

 黙っていれば男臭いタイプの美形だろうに、随分と子供っぽい表情を浮かべる男だと、オーレイアは飽きれ半分、好奇心半分で騎士団長に一歩近づいた。


「平民出身なことは気にしないの?」

「んー、いや、まあ俺自体は一応貴族出だけど、家を継げない三男だからな。だから騎士団に入ったんだし。そんなに平民だ、貴族だ、ってこだわりはないな。それより気になるのは聖女サマが辺境出身ってとこだ。」

「辺境の?」

「あぁ、隣国が敗戦してから、次の狙いはこの国なら辺境もきな臭いってんで、平騎士だったし、派遣されてたんだよ。数年くらい。

まあ、結局こっちの国には遠征してこなかったから、中央に戻されたけど。

でも、辺境は飯が旨かったし、面倒くさい権力闘争とも無縁で、すげぇ居心地が良かったなぁ。」


 昔を懐かしむように男は顎に手を当てて遠くを見つめた。

 この宗教国以外の貴族世界は知らないが、この国は聖職者も政治に絡んでいるから、権力だのなんだのがややこしい。

 そんな国の聖女に選ばれるなんて、いっそ憐憫の情さえ芽生えてしまいそうだ。


「そうでしょ、辺境は良いとこでしょう!特産の林檎なんて色んな品種があるから年中アップルパイが食べられるのよ。」

「あ~、食べたな、アップルパイ。教会の日曜礼拝後に食べたアップルパイはやたら旨かったな。」

「教会に行ったことあるの?あのアップルパイは司教様の奥方様の十八番なのよ。私の一番の大好物なんだから!」


 話していて、騎士団長はオーレイアが前評判通りの愚鈍な娘ではないことにすぐに気づいた。

 自分の砕けた口調に合わせるようにオーレイアもすぐに敬語をやめて、騎士団長が親しみを覚えやすいようにしていた。


 頭の回転は悪くなさそうだ。

 生き生きと辺境のことを語る年相応の少女の笑顔が眩しくて、騎士団長は目を細めた。


よろしければ★を頂けると嬉しいです。

本作は短編「視線の行方」と登場人物が繋がっているので気が向いたらぜひご覧ください。

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