腐敗する中央教会
中央教会に到着したオーレイアを待ち構えていたのは、利権を狙う権力者達であった。
聖女は信仰の象徴である。
貴族、商人、そして最も権力を持つ聖職者達から受ける品定めの視線。
浅ましい彼らの声を耳にする度、それはオーレイアの中の聖職者への憧れを打ち砕いていった。
しかし、オーレイアは確かに賢い娘であったので、内心の失望を表面に出すことは決してしなかった。
平民出身の聖女と言うだけで侮られていることは分かりきっていたが、生家から聞き取られた事前調査の結果として、愚鈍な娘との前評判が定着していたのだ。
捻じ曲げられた報告の原因が嫉妬した姉達であることは言うまでもない。
望まれているのは、教会のプロパガンダとしての役割であり、貴族との婚姻による政治と宗教との関係強化であった。
ならば、敢えて愚鈍な娘として振る舞おう。
幸いなことに、元伯爵令嬢であった辺境の奥方から習ったオーレイアの行儀作法はこの国の伯爵位の貴族令嬢が持つレベルに達しており、元々予定されていたのは男爵家から伯爵家までの階級への嫁入りであった為、宮殿での聖女のお披露目会は前倒しで開催されることとなった。
傀儡の聖女に、宗教国の歴史や経済、政治や語学力は必要ないと判断されたのだ。
不愉快なマナーのない態度だけは我慢できないと命じたのは枢機卿の誰かだったと言う。
行儀作法を一から学ぶ場合は、体罰も辞さない厳しい教育係が宛がわれる予定であった。
オーレイアは決して恵まれた環境にはいなかった。
だが、決して不幸ではなかった。
聖女になった瞬間から、オーレイアは分かっていた。
自分は神に愛されている、と。
宮殿で行われた聖女のお披露目会は、儀式的な要素が強いものであった。
聖女らしい真白いローブに身を包んだオーレイアは、夢見るような儚げな容貌が相まって、妖精のような幻想的な雰囲気を醸し出していた。
出世した瞬間から磨き抜かれてきた高位貴族の令嬢達にも引けをとらない、一種独特の美しさである。
オーレイアは、待っていた。
光り輝くクンツァイトの瞳で、その心を委ねる相手を。
「そなたがオーレイアだな、来い。わたしが相手をしてやろう。」
居丈高な態度でオーレイアの手首を取ったのは、父親が枢機卿であり、その跡を継ぐべく次期大司教と目されている司教の年若い青年であった。
日に当たっていないような青白い肌をしている。
オーレイアは16歳だが、それより5、6歳ほど年上と思われた。
「貴方様は、」
「わたしの名は、サルカス。オーレイアは、わたしの聖女となるのだ。」
好色な声色を隠すことなく言い放つサルカスの目を、オーレイアはじっと見つめた。
溢れるような大きな瞳で見つめられて、サルカスはたじろいだ。
オーレイアは心の中で呟く。
違う。
私が探しているのは、この人ではない。
「聖女様がお困りになってますよ。」
「セウスか。」
温厚そうな線の細い青年が、そっとサルカスからオーレイアの手首を開放した。
サルカスはやすやすとセウスを割り込ませたことから、自分の周囲への注意が散漫になっていたことに気づき、顔をしかめた。
「お目にかかれて光栄です、聖女様。セウスと申します。僕も貴方の夫候補と言うわけですよ。」
微笑みながら舞台役者のような大袈裟で優雅な挨拶をするセウスをみて、ますますサルカスが顔をしかめている。
セウスは教会に太いパイプを持つ伯爵家の嫡男であり、サルカスとも顔見知りであった。
場の空気が気まずくなり、温度を下げたので、この場を離れるなら、今しかないとオーレイアはわざと無作法にぺこりと頭を下げた。
「ありがとうございます。でも、ごめんなさい、少し疲れました。」
じっとセウスの目を見つめると、先ほどの平民臭い挨拶も相まって、セウスはぎょっとしたように、オーレイアから目を反らした。
やっぱり違う、この人でもない。
オーレイアはセウスに礼を言い、その場をそっとあとにした。
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本作は短編「視線の行方」と登場人物が繋がっているので気が向いたらぜひご覧ください。




