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魔女ちゃんの仰せの儘に!  作者: 越谷さん
【第1章】魔女ちゃんの日常

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【第7話】魔女ちゃんの恋愛遍歴

 三日月が夜の海に揺れる午後九時。

 風呂上がりの日和は、自分の部屋の学習机で今日も課題と向き合っていた。トレードマークのおさげは、風呂上がりな事もあって結わずに下ろしている。悪魔が侵入してくる為窓は閉め切っており、爽やかなシャンプーの香りが部屋に充満していた。

 今日の宿題を早々に終わらせた日和は、次の課題に着手する。真っ新な原稿用紙を広げて、筆箱からボールペンを手に取る。いざ文字を綴ろうとボールペンを滑らせると、原稿用紙には掠れた文字しか残らなかった。

「あれ?」

 ボールペンを振って再度挑戦してみるも、先端から黒いインクは出てこない。完全にインク切れだ。

 手詰まりの状態に、日和は椅子に背中を預ける。こうなっては手出しのしようがない。日和は椅子から立ち上がると、インク切れのボールペンを持って自室を後にした。



「ボールペン?」

 登校中に日和が口にした単語を大我が反芻する。

「そう。昨日来週までの宿題の小論文書こうとしたんだけど、私のボールペン、インクが切れちゃったみたいでさ。だから新しく買いに行かなきゃいけないの」

「へぇ」

 消耗品とは使用しているうちにいずれなくなるものだ。日和は導入を話し終えると、続いて本題に入る。

「だから今日の放課後、一緒にボールペン」

「断る」

 日和が言い終わる前に、大我は一刀両断した。

「ちょっ! まだ言い切ってないでしょ!?」

「言い切ったら命令にされるだろ! なんで俺がお前のボールペン買うのに付き合わなきゃなんねぇんだよ!」

「しょうがないでしょ一人じゃ危ないんだから!」

「だったら親にでも弟にでも頼めばいいだろ!」

「ボールペンくらい私一人でも買えるわよ!」

「買えねぇから俺に頼んでんだろ!」

 この程度の事で親や弟の手を借りるのは、日和の真面目な性格が許さないようだ。その性格によって害を被っているのは大我になるのだが。

「全く……朝から大きい声出させんなよ」

 早朝からの言い争いに、大我は眩暈がして頭を抱える。

「体調悪いの?」

「……なんでもねぇよ。ただの寝不足だ」

 体調を案じた日和に、大我はぶっきらぼうに返す。少し違和感を覚える日和だったが、特に強がりには見えなかったので素直に信じる事にした。

「とにかく、もう金曜日だし宿題の期限も近いの。早いとこ新しいボールペン買って宿題終わらせないと」

 今日は金曜日。明日からは二連休だ。心なしか周囲の生徒達の足取りが軽いのはその為である。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()! 分かった!?」

 例え分からなくとも大我に拒否権はない。日和の口から発せられた命令は絶対服従だ。

「……今日の夜からはこいつの束縛から解放されて、家でのんびり出来ると思ってたのに」

「なんか言った?」

「仰せの儘にって言ったんだよ」

 大我から漏れ出た本音に日和が目付きを尖らせるも、大我は気儘に受け流す。今日さえ乗り切れば明日からは自由だと、そう自分に言い聞かせる事にした。

 目的地の学校が近付いてくると、突然複数の甲高い声が束になって響いてきた。

「ん?」

 大我は声の聞こえた方向に目を凝らす。そこに居たのは複数人の女子生徒と、そんな女子生徒に囲まれた一人の男子生徒。

「誰だあいつ」

「あ」

 日本では珍しいブロンドの髪色。遠目からでも分かる端正な顔立ち。まるで学園ドラマから切り抜いた様な華やかな世界観は、女子達の黄色い声も納得だ。大我の隣に居る女子だけは、その男子を前に表情を強張らせていたが。

 こちらの視線に気付いたのか、男子の澄んだ瞳がこちらを捉える。すると男子の表情は一変して綻んだ。その笑顔は決して大我に向けられたものではない。

「天宮さん!」

 男子は手を振って日和の名前を呼ぶ。その声に合わせて、男子を取り巻いていた女子達もぎろりとこちらに目を向けてきた。その瞳は男子の瞳とは全くの別物、怨念に近い敵意が含まれていたのだが。

「忘れてた……」

 眩しい程の笑顔を向ける男子とは対照的に、日和の顔には影が差す。この状況に大我は理解できず、ただ首を傾げるばかりだった。



 昇降口で上履きに履き替え、教室に向かう廊下の道中で大我は日和に尋ねる。

「さっきのあいつ、お前の知り合い?」

「やっぱり知らないのね」

 予想こそしていたが、まさか本当に知らないとは。疑問符を踊らせる大我に、日和は溜息を吐いた。

「隣のクラスの月山御影くん。女子が皆カッコいいって噂してる、学校の王子様よ」

 校門で会った時も、御影はこちらに悩殺的な笑顔を向けて昇降口へと歩いていった。周囲の女子達は糸で引かれるかの様に歩き出す。それはさながら強い幻覚に酔っているかの様だった。

「ふーん」

 御影の名前を聞いても、無論大我は知りもしない。寧ろ大我の興味はその先にあった。

「それで、その王子様がなんでお前に声掛けたんだ?」

 大我の質問に、日和の足が止まる。

「そ、れはぁ……」

 急にどもり出した日和は、視線を大我とは別の方向に泳がせる。ぐっと日和の顔を覗いてみると、日和の顔色は薄らと茜色に染まっていた。

 特段隠すような話ではない。そんな事は分かっているのだが、恥ずかしさからかなかなか口に出せないまま時間だけが過ぎていった。



 結局日和が大我に打ち明けたのは昼休みになってからだ。

「………」

 校舎の階段横。人気の少ない簡易的な物置スペースで、日和は立ったまま体をくねくねと捻らせていた。上手く焦点を合わせられないでいる日和の顔を、大我は凝視する。

「……こんな堅物芋女のなにが良いんだか」

「誰が堅物芋女よ!」

 面と向かって発せられた暴言に、日和は声を荒げた。そんな様子も小動物が威嚇している様にしか見えず、大我にはなんの意味も成さなかったが。

「でっ、でも! 月山くんが私の事どうこう考える訳ないし! きっと気のせいよ!」

 御影に声を掛けられたあの日から、日和はふと御影の事を思い出していた。しかしどうにも好かれる理由が見当たらない。もしかしたら御影は、純粋な興味で日和の事が気になっていたのかもしれない。なんなら自分の聞き間違いかもしれない。そう考えた方が自然に納得がいって、日和は考える事を放棄していた。

 そんな日和を、大我は放置された机に腰掛けながら見つめていた。

「……もしかしてお前」

 口を開いた大我に、日和は目を向ける。

「今まで告られた事ねぇの?」

「はぁ!?」

 飛び出してきたその言葉に、日和の顔色は途端に紅潮した。

「なっ! なによいきなり!」

「いや明らかに不慣れな感じだから、そうなのかと思って」

「別に今その話関係ないでしょ!?」

「関係大アリだろ。どう考えても」

 動揺のあまり日和の反論の整合性が薄れる。自分の頭がろくに回っていない事は、日和自身も理解していた。

「……ないわよ。自分から告白した事もないし、ましてや誰かを好きになった事だってないわ」

 観念して日和は自分の恋愛遍歴を白状する。もっともその遍歴はなにも記されていない白紙の状態だった訳だが。

「まぁ、そうだろうとは思ってたよ」

 大我もそれは予想の内だった。

「……なるべく、人に近付かないようにしてたから」

 神妙に声色を変えた日和に、大我は顔を上げる。

「ほら、私の唇が当たったら契約になっちゃうからさ。事故でも当たらないように、過度に近付き過ぎないように気を付けてたの。まぁ、気を付けてても事故は起こっちゃったんだけど……」

 事故が起こったせいで日和の魔女の力は解放され、大我は絶対服従の契約を交わされてしまった。大我からすれば、今からでも取り消したい事故だ。

「……思ってたんだけどよ」

 そう前置いて、大我はかねてからの疑問を日和にぶつけた。

「お前マスクとかしねぇの?」

 その言葉に、日和の心臓がびくんと跳ねる。

 契約の口付けは日和の唇が直接相手に触れなければ発動されない。それならば日和がマスクを付けるだけで、どんな事故も未然に防げる筈だ。

「……マスクね。昔は付けてたわよ」

 当然日和もその手段は考えていたようだが、現実はそう上手くいかなかった。

「でもずっと付けてた影響なのか知らないけど、ある日を境にマスクを付けると体が拒否反応を起こすようになっちゃって」

「拒否反応?」

 当時の事を思い出して、日和は息を呑む。

「マスクを付けるとね、顔が真っ赤にかぶれるようになっちゃったの」

 それは日和が小学校低学年の頃。いつものようにマスクを付けて小学校に向かっていると少しずつ顔がかぶれていき、家に帰ってきた時にはまるで顔の下半分だけ火傷したかの様に真っ赤にかぶれてしまっていた。その日はあまりの痒さに号泣しながら、母親の典子に塗り薬を塗ってもらったものだ。その日以降、日和はマスクを付ける事が出来なくなってしまった。

「……んな事あるかよ」

「本当だって! マスク付けてたところだけ、宇宙人みたいに真っ赤になるんだから!」

 信じていない様子の大我に、日和はぐっと顔を寄せて抗議する。まず宇宙人の色を知らないのだが、最早そこはどうでもよかった。

「とにかく! そういう事とか色々あって大変だったから、誰かを好きになったりみたいな、そんな余裕はなかったの!」

 そう声を上げる日和の顔は、マスクを付けていないにも関わらず真っ赤っかだ。この症状から見ても、日和の恋愛経験が皆無な事は容易に頷けた。

「でもこれからは良かったな」

「え?」

 大我の言葉の意図が読めず、日和は首を傾げる。

「自分の気になる相手にキスしたら、そいつはお前の言いなりになるんだろ? だったら誰とでも恋愛し放題じゃねぇか」

 日和が一度唇を合わせたら、その時点で相手は日和の意の儘。そこに恋愛の駆け引きは必要ない。恋愛において、日和はどんな相手をも落とせる必勝法を手にしているのだ。

「だから嫌なんじゃない!」

 しかしそんなものは日和の望んだものではなかった。

「私はもっと……皆と同じ、普通の恋がしたいの」

 突然大声を出したかと思うと、掠れた声を出しながら両手でぎゅっとスカートを掴む。それは日和がずっと望んでいた、紛れもない本音だった。

「……いきなりデケェ声出すなよ」

 日和の突飛な言動に、大我は声を忘れる。その声を聞いていたのは大我一人ではなかった。

「天宮さん、こんなところに居た」

 別方向から聞こえてきた声に、二人は振り返る。

 黄色いストライプのネクタイに、気持ち寂しい頭髪。大我は顔を見ても誰か分からなかったが、その特徴から自分と同じ生徒ではなく教師である事は理解した。教師もこちらに歩いてきてから、大我の存在に気付く。

「くっ、黒島くん」

「どうしたんですか先生」

 顔から血の気を引かせる教師に、日和が平然と尋ねる。そんな日和につられて、教師もいつもの調子に戻って日和に用件を伝えた。

「そうだ。天宮さんにちょっとお願いしたい事があって」



 教師の頼み事というのは、放課後新しく届いた参考資料を職員室まで運ぶのを手伝って欲しいというものだった。

「なんで俺までこんな事しなきゃいけねぇんだよ」

 大我の両手には、今まで大我が目にしてきた以上の量の参考資料。職員室まで続く廊下を歩く大我の眉は、まるでエベレストの様に中央に聳え立っていた。

「二人でやった方が早く済むでしょ」

 隣では大我の半分程の量を抱えた日和が歩いている。大我にも手伝わせると言い出した時、教師はかなり面食らっていたが、大丈夫と豪語する日和の強い後押しもあり、こうして二人で放課後に残る事となった。

「……いつもこんな事やらされてんのか」

 資料を運ぶ道中、大我が日和に尋ねる。教師の頼み方からして、このような事も一度や二度ではないのだろう。

「その言い方やめてよ。私は好きでやってるの」

 昔から人に頼られるのが好きだった。なにかを頼んでくるという事は、その人に信頼されているという証だから。だから決して嫌がりながら請け負っている訳ではない。寧ろ日和は喜んで請け負っているのだ。

 晴れやかな横顔で歩く日和を、大我は変人を見る目で見つめる。

「……お前、ダメ男に引っ掛かりそうな性格してんな」

「はぁ!?」

 不意に吐かれた暴言に、日和は顔から湯気を沸かせた。

「なによいきなり!」

「いや別に、なんとなくそう思っただけだよ」

「なんで黒島くんにそんな事言われなきゃいけないの!? というか! そういう黒島くんは恋愛経験あるの!?」

「別に俺の話はいいだろ」

「あー! はぐらかしたー!」

 人の少なくなった校舎が、途端に騒がしくなる。離れた場所で居残りしていた生徒も、気になってこちらを覗きにくる程だ。

「あれ?」

 その中の一人がこちらに声を掛けてくる。声すらも美しい彼に、二人の表情は揃って曇った。

「天宮さん、まだ学校に居たんだ」

 教室から出てきた御影は、そう言って日和の側に歩み寄ってくる。御影の存在を知らなかった大我も、今朝鉢合わせたばかりなので流石に覚えていた。周囲にきらきらとオーラが瞬いている様な気がして、大我は思わず目を逸らす。

「うん、先生に手伝い頼まれて……月山くんは?」

 真正面に立たれて無視する訳にもいかず、日和は御影と会話する。すると御影は、どこか気恥ずかしそうに人差し指で頬を掻いた。

「あー……実はちょっと別のクラスの女の子に、今から校舎裏に来て欲しいって言われてて」

 ――絶対告白だ!

 あまりにもベタな告白の誘いに、日和は心の中で大声を上げる。これで嫌味に聞こえないのが、御影の王子様たる所以なのだろう。

「手伝おうか?」

「ううん! 大丈夫! 黒島くんも手伝ってくれてるし!」

 代わりに資料を持とうとした御影を、日和は一歩後退って断る。御影から告白(推定)を受けた事もあり、御影と同じ場所に居ると心が落ち着かなくなってしまっていた。

「……そっか」

 御影は日和の隣に立つ大我に目を向ける。大我は早く仕事を片付けて帰りたいのに立ちっぱなしで放置され、徐々に不機嫌を募らせていた。

「それじゃあ私達行くね! 月山くんまた!」

 そう別れを告げると、日和は逃げるようにして足を前に踏み出す。

 その時、日和の足がなにかに躓いた。

「!」

 バランスを崩した日和は、参考資料を宙に舞わせながら前に倒れる。大事なのは舞った参考資料ではない。御影の胸元へと接近する日和の唇だ。

 このまま御影の唇まではいかずとも、腕や手に触れてしまう可能性は高い。そうなってしまえば、またもや日和の眷属が増える事になる。

 御影の胸に日和が飛び込む寸前、大我の両腕が日和の体と唇を止めた。

「……危ねー」

 大我が抱えていた参考資料も、今や廊下に散らばっている。そんな事はどうでもよくなる程、二人の肝は凍り付いていた。

「お前、気を付けろよな」

「ありがと……」

 大我の手から離れた唇で、日和はそう感謝を告げる。

「……大丈夫?」

 御影から言われて、二人は正気に戻る。御影の視点からは、大我が日和をバックハグしているように見えていた。

「だっ、大丈夫! ちょっと躓いただけだから!」

 日和は慌てて大我の側から離れると、散らばった資料を一つ一つ掻き集めていく。両膝を突いて集める日和の手元は、あまりの混乱に震えていた。

「僕も拾うよ」

「いいよそんなの! それより早く行ってあげて! 女の子待たせてるんしょ!?」

 一緒に屈んで集めようとした御影に、日和は必死に首を振る。これ以上御影の側に居ては、なにが起こるか気が気でなかった。

「……じゃあ、頑張ってね」

 今も校舎裏で待っているだろう女子の事を思うと断る訳にはいかず、御影は立ち上がって先を急ぐ。御影の居なくなった廊下で、二人は地道に資料を集めていった。

「やっぱお前マスクしろよ」

「……検討する」

 そんな些細な会話も聞こえない程の距離感で、御影は振り返る。御影の視線の先は、日和から大我に移り変わっていた。



 あれから参考資料を集め直し、職員室まで運び届けて昇降口を出た時には、しばらくの時間が流れていた。

「大分時間掛かっちゃったね」

 空は既に夕暮れ色。これから文房具屋に寄り道をすれば、確実に家に着く前に空は夜に染まるだろう。

「これじゃあ今日はボールペン買いに行けないか」

「残念だったな。それならとっとと帰ろうぜ」

 足を止める日和を置いて、大我は家路を歩く。言葉とは裏腹に、その足取りは実に嬉しそうだった。

 先を歩く大我に、日和は考え込む。

「……黒島くん」

 名前を呼ばれ、大我は嫌な予感を働かせながら踵を返した。

「明日、なにも予定ないんだよね?」

 その嫌な予感は見事的中だ。

「……いやちょっと立て込んでて」

「噓つき! 今朝家でのんびりするとか言ってたじゃない!」

 咄嗟に吐いたデマカセは、日和に速攻看破される。こんな事なら余計な事を言わなければよかったと、大我は酷く後悔した。

「ふざけんな! なんで休日までお前に付き合わなきゃなんねぇんだよ! そんなに行きたきゃあの大学生誘えよ!」

「信ちゃんは嫌!」

 愛しの日和から強く拒絶された事を、信介は知らない。

「大体ボールペンなんて一日くらい家族から借りれば済む話だろ! 来週一緒に行ってやるから、明日はなしだ! 分かったか!」

 大我の言っている事はもっともだ。休日に小論文の宿題が出されているからといって、明日慌てて買いに行く必要はない。

 しかし日和の目的は別の場所にもあった。

「黒島くんは小論文の宿題進んでるの?」

 日和の疑惑の瞳に、大我は顔を逸らす。余計な事を言わないようにと口を閉じたが、その沈黙が逆に仇となった。

()()()()()()()()()()()()

 じとっと大我を睨みながら、日和は容赦なく命令を宣告する。

「お前!」

「どうせ一人じゃなにも出来ないでしょ。明日私も手伝ってあげるから、黒島くんも()()()()()()()()

 歩き出した日和は、ショックのあまり立ち尽くす大我を通り過ぎて先を行く。大我の体は怒りでふるふる震えていた。

 大我は鋭利な眼光で日和を睨む。その後ろ姿は以前見た悪魔よりも残虐に見えた。

「クソがぁぁぁぁぁぁぁ!」

 憤怒の大爆発に、近くに居たカラスは驚いて夕空に飛び立っていった。



 無事夜になる前に送り届けてもらった天宮家のリビング。

「お待たせしました。ご飯ですよー」

 ブレザーだけを脱いでハンガーに掛けた日和は、寝床で丸くなっていた黒猫にキャットフードを用意した。黒猫はあまりその場から動きたくなさそうだったが、空腹に耐えかねてのっそり器の側に歩み寄る。黙々と食べ始める黒猫に、日和は自然と表情が柔らかくなっていた。

「そういえばお姉ちゃん、ボールペンは買えたの?」

 そう日和に声を掛けたのは、先程湯舟から上がったばかりの利久だ。利久はタオルで髪を乾かしながら、風呂上がりのジュースを求めて冷蔵庫を開ける。

「ううん、ちょっと別の用が出来ちゃって。だからボールペンは、明日黒島くんと一緒に買いに行く事になったの」

「ふーん……」

 日和の話を聞きながら、利久はグラスに移したオレンジジュースを口に注いだ。

「それじゃあ、明日は黒島とデートだね」

 利久のその言葉が、日和の頭上に雷を落とす。

 正直全く考慮していなかった。しかし言われてしまえばその通りである。男女が休日に会う約束をする。誰がどう考えても、それは紛れもなくデートだった。

「デッ、デートォ!?」

 日和の絶叫が夜の街にこだまする。時計の針は着実に、明日へのカウントダウンを進めていた。

マスクに関しては、この設定にしてから僕がずっと思っていた事でした。それに対して異論を唱える為に書き出したのが今回です。

こういう話は淡泊になりがちなので、色々と要素を詰め込んだ結果随分長くなってしまいました。

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