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魔女ちゃんの仰せの儘に!  作者: 越谷さん
【第1章】魔女ちゃんの日常

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【第4話】魔女ちゃんと謎の男

 今日の授業が終了し、生徒達は晴れ晴れとした表情で服巻高校の校門を抜ける。一年二組の教室を出た日和と大我も無論同様だ。数時間もの間最後列の席に拘束された事により、大我は重たい疲労感に押し潰されそうになっていた。

「あっ、教科書忘れた」

 校門を抜けてすぐに、日和が思い出して鞄を漁る。六時限目に使用した英語の教科書が、どこを探しても見つからなかった。

「別に良いだろそんくらい」

「良い訳ないでしょ。宿題も出てるんだし」

 授業の最後に英訳の宿題が出されている。もっとも教師の話を右から左に流していた大我は、なにも覚えていなかったが。

「ちょっと私取ってくる」

「はぁ!?」

 踵を返した日和に、大我は顔を顰めた。

「ふざけんな! なんでお前が忘れ物取りに行ってる間、俺が待ってなきゃいけねぇんだよ! 今日は先帰ってるぞ!」

 待たされては自由時間が削れると、大我は帰り道に足を踏み出す。授業の疲労から、大我の頭は上手く回っていなかった。

「黒島くん」

 故に大我は忘れていた。自分に拒否権など与えられていない事を。

()()()()()()()

 日和の命令に、大我の足は止まる。どれだけ前に動かそうとしても、その足が大我の言う通りに動く事はなかった。

「それじゃ、なるべく急いで戻ってくるから」

 大我に命令をして、日和は駆け足に校舎へと戻っていく。魔女がその場を離れようと、大我の呪いが解ける事はない。大我はただ苦虫を噛み潰す事しか出来なかった。

 ――くそっ……!



 昇降口で上履きに履き替え、日和は一年二組の教室に戻る。クラスメイトは全員帰っており、教室は日和一人だけ。日和は窓際の自分の席に向かい、机の中で眠っていた英語の教科書を回収した。

「あったあった」

 これで任務完了と、日和は教科書を鞄に入れて教室を後にする。大我を待たせたくない気持ちはあるが、それ以前に廊下を走る訳にはいかないと、少し急ぎめに教室を歩いた。

「天宮さん?」

 そんな日和を誰かが呼び止める。日和は振り返って、その声に目を向けた。

 米国人の様な美しい金髪に、髪色に負けないくらいの整った目鼻立ち。女子百人にアンケートを取れば、間違いなく全員一致でイケメンと答えるだろう。それ程のイケメンは当然学校でも噂になり、その噂は日和の耳にも届いていた。

「月山くん……だよね?」

 月山(つきやま)御影(みかげ)。一年一組に在籍する、正に服巻高校を代表する王子様だ。

「どうしたのこんな時間に?」

「あー……ちょっと忘れ物しちゃって」

「そうなんだ」

 世間話を交えて、御影は日和と距離を詰める。近くで目にすると、優れた顔立ちやスタイルが余計際立っていた。

「月山くんは?」

「今日日直でさ、これから職員室に日誌を届けるところなんだ」

 日誌を見せて微笑む仕草すら輝かしい。日和はその輝きを、最早直視できなかった。

「というか、話したの初めてなのによく僕の名前分かったね?」

「それは……月山くん有名人だから」

 服巻高校に通う一年生で、御影の名前を知らない者は居ないだろうと思ったが、一人知らなそうな人物が校門で待っているのを思い出す。

「それを言うなら、よく私の名前知ってたね?」

 顔と名前は知っているものの、日和と御影はこれがほぼ初対面だ。クラスも違って他に接点がある訳でもなく、特に目立っている訳でもない日和が御影に認知されているとは正直考えていなかった。

「うん。だって」

 日和の問い掛けに御影は答える。

「天宮さんの事、ずっと気になってたから」

 その言葉に、日和は硬直した。

「それじゃあ僕職員室行ってくるから。天宮さん、また明日」

 御影はそう言って手を振ると、昇降口とは反対方向の職員室に向かって歩き出す。本当のイケメンは後ろ姿まで格好良かったが、日和が背中を見ていたのは単に見惚れていたからではない。

「……え?」

 日和の頭の上には、巨大な疑問符が浮かび上がった。



 日和が忘れ物を取りに戻っている間、大我はずっと校門の側で待機していた。その光景はさながら店の前でリードに繋がれた凶暴な飼い犬。校門を出ていく生徒達は、大我の仏頂面を見るや否や怯えたようにその場を去っていった。

 その仏頂面の脳内ではなにが考えられていたかというと、

 ――……トイレ行きてぇ。

 ちょっとした窮地に悩まされていた。

 ――くそっ! あいつが適当な命令するからトイレすら行けねぇじゃねぇかよ! 早く帰ってこい!

 尿意を堪える度に眉間に皺が寄り、道行く生徒の恐怖に拍車が掛かる。その負のスパイラルに、大我は気付いていなかった。

 すると大我の前を、とある人物が立ち止まる。長く伸びた黒髪を一つに結んだ高身長の好青年。その顔立ちは通りすがった女子生徒が思わず噂する程整っていた。大我よりも少しばかり年上だろうか。青色のチェック柄シャツの肩に、細長い黒色の袋が一本掛けられている。

「貴様が黒島か」

 見るからに不良の人相ではないが、大我に向けるその視線は険しかった。

「……誰だお前」

 メンチにはメンチで返すと、大我は青年を睨み返す。

 青年は肩から袋を下ろして、徐に中身を弄る。袋の中から取り出したのは一筋の竹刀だった。

「黒島! いざ尋常に俺と勝負しろ!」

「はぁ!?」

 青年は袋を投げ捨てると、竹刀を振り上げて大我に襲い掛かる。あまりに突飛な青年の行動に大我は間一髪で回避した。青年が振り下ろした竹刀からは風を切る音が聞こえ、その一振りの本気具合が一目で分かる。

「だから誰なんだよお前は!」

「問答無用!」

 大我の問い掛けに答える事なく、青年は竹刀を構える。次々と襲い掛かる竹刀を、大我は持ち前の反射神経で紙一重に躱し続けた。

 突然始まった校門前の戦闘に、周囲の生徒達は混乱する。

「どうした! 何故反撃してこない!」

「うるせぇ! こっちにも事情があんだよ!」

 反撃しようにも日和からの喧嘩禁止令がある以上、大我が拳を握る事は許されない。ただ青年の竹刀を躱す事しか出来なかった。

 ――くっ!

 ふと竹刀の突きが、大我の頬を翳める。

 ――こいつ……なかなかやるな……!

 完全に見切ったと思われたが、その竹刀は大我の体を捉えた。青年の正体は、ただの変わった暴漢という訳ではないようだ。このままではいずれ大我の体に、手痛い一撃を入れられてしまうかもしれない。

 その時、回避していた大我の足にブレーキが掛かる。

「!」

 ――やべぇ! 命令の範囲外か!

 今回日和に言い渡された命令は「()()()()()()()」。『ここ』という文言がかなり曖昧だったが、どうやらその範囲ギリギリにまで追いやられていたらしい。

「隙あり!」

 大我が止まった一瞬の隙を突いて、青年は竹刀を振り上げる。逃げ場を失った大我は、振り下ろされた竹刀を頭で受け止める事にした。

「なっ!」

 頭蓋骨が割れる様な痛みを覚えながら、大我は竹刀を右手で掴む。竹刀を握るその力は非常に強く、青年が竹刀を振り回そうとしても決して離れない。

「痛ぇじゃねぇかこの野郎……!」

「汚い手で俺の竹刀に触るんじゃない……!」

 鋭利な視線が交差するも、互いに一歩も動けない膠着状態だ。野次馬となっていた生徒達はスマホで動画を取っていたり、教師を呼んだ方が良いのではと相談したりしている。

 その人だかりに、忘れ物を取って戻ってきた日和も気が付いた。

 ――なにかあったのかな……はっ! まさかまた黒島くん!?

 まさか人だかりの原因は自分のクラスメイトではないかと、日和は人だかりの中に突入する。泳ぐように人を掻き分けて人だかりの中心に辿り着くと、そこにはやはりクラスメイトが待っていた。

「黒島くん! 貴方なにしてるの!?」

「遅ぇよ! お前早く命令解け!」

 竹刀を止めながら声を荒げる大我に、日和はちんぷんかんぷんだ。

「はぁ!? 一体どういう」

 そこで日和はようやく大我と対峙する青年に目を向けた。竹刀を両手に構える長髪の好青年。青年も日和の影に気付いて、ひたすら大我に向けていた瞳を日和に移した。

「信ちゃん!?」

「日和!」

 顔を見合わせた二人は、互いに名前を呼び合っている。

「……はぁ?」

 一人理解できていない大我だったが、取り敢えずその膀胱は決壊寸前だった。



 待機の命令を解除し、三人は生徒の集まっていた校門を離れて、人気の少ない公園へと場所を移した。公衆トイレで尿意から解放された大我は、早速日和から説明を受ける。

「彼は石動(いするぎ)信介(しんすけ)くん。子供の頃からお世話になってる近所のお兄さんよ。今は英智大学に通ってる」

「久し振りだな日和!」

「久し振りって、先月会ったばかりでしょ」

 信介と紹介された青年は、日和に爽快な笑顔を見せている。先程の大我に向けていた顔とはまるで別人だ。

「信ちゃんとは家族ぐるみの仲でね。私の家が魔女の家系だって知ってる、唯一の友人と言ってもいいわ」

 日和は自分が魔女である事を誰にも打ち明けていない。勿論友人の真琴にも。

「へぇ、魔女の事知ってるのか」

「信ちゃんのお父さんが、昔お母さんの眷属だったみたいなの」

 日和の出産に合わせて力を失ったらしいが、母親の典子もかつては日和と同じ魔女だった。あの母親が魔女となって暴走している姿を想像すると、大我の表情が少し引きつる。

「それで、そのお兄さんが俺になんの用だよ」

 簡単な紹介も終わったところで、大我が本題に入る。

 竹刀は袋に納められていたが、信介の大我に向ける視線は依然険しい。初対面に向けていい視線とはとても考えられなかった。

「……黒島」

 信介は親の仇を見る様な瞳で大我に訴える。

「どうして貴様が日和の第一眷属なんだ……!」

「……はぁ?」

 それは理解不能な怨恨だった。

「この前偶然典子さんにお会いした時、遂に日和が魔女の力を解放したとお聞きした。日和の力を解放し、その身を力の限り守るのは俺の役目だった筈なのに……!」

 信介は掌を強く握り締めながら悔しそうに語っている。更には日和の肩を両手で掴み、迫真の表情で問い詰め出した。

「どうして! 魔女になる時は俺を第一眷属にすると約束してくれたじゃないか! それがどうしてこんな素行の悪そうな男と!」

「別にこれは事故でこうなっただけで! それに約束も子供の頃の話でしょ!?」

「子供の頃にしようと約束は約束だ!」

 どうやら信介は日和に対しての重度なシスコンのようだ。信介の瞳には薄らと涙が滲んでいる。

「あのー……いまいち話が読めねぇんだけど」

 いつの間にか蚊帳の外となっていた大我が恐る恐る質問する。

「第一眷属ってのはなんなんだ?」

「魔女が眷属にした契約の順番によって、眷属の呼び方が変わるの。黒島くんは私が最初に契約した眷属だから第一眷属って事」

 知らない間に、大我は日和の第一眷属となっていたようだ。

「順番によってなんか変わるのか?」

「いや、特になにも変わらない筈だけど……」

「第一眷属というのはな、特別な存在なんだ」

 大我と日和の会話に介入するように、信介はぽつりと語り出す。その横顔はまるで愛しい人を思い浮かべるかの様に儚かった。

「魔女との口付けで力を目覚めさせ、その命をこの身が朽ちるまで守り抜く。正に一心同体。俺はそんな日和の存在に……なりたかったんだぁ!」

「うわぁ……」

「悪い人ではないんだけどね……」

 公園の地面に這い蹲って泣き叫び出した信介に、大我と日和は憐みの目を向ける。それは決して年上の青年に向けていい瞳ではなかった。

「別になりたいならなればいいじゃねぇか。俺だって毎日こいつの送り迎えすんのうんざりしてたし」

「なに言ってんのよ!」

「これからこいつに送り迎えしてもらえよ」

「そんなの鬱陶し……いや、信ちゃんの大学生活の迷惑になっちゃうでしょ!?」

 日和も過保護に接してくる信介に若干嫌気が差しているようだ。その辺りは年頃の女子といったところか。上手くいけば毎日の送迎から逃れられると考えたが、大我の作戦は失敗に終わった。

「……黒島」

「ん?」

 地面に這い蹲っていた信介が、不意に大我の名前を呼ぶ。信介は膝に付いた土を払って立ち上がると、肩に掛かった袋から再び竹刀を取り出した。

「俺と勝負しろ!」

「はぁ!?」

 突然の宣戦布告に、大我は声を荒げる。

「貴様が日和の第一眷属に相応しい男か、俺が見定めてやる!」

 校門の時と同じような信介の険しい瞳は、決して冗談を言っているものではない。信介から突きつけられた竹刀を、大我は困惑しながらも真っ直ぐ睨み返していた。

今回は謎の男こと新キャラに二人登場してもらいました。

まだ登場人物が少ないので、これからどんどん新キャラを出して賑やかな物語にしていけたらなと思っています。

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