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魔女ちゃんの仰せの儘に!  作者: 越谷さん
【第1章】魔女ちゃんの日常

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【第12話】魔女ちゃんの修行

 鬱蒼とした緑が陽の光を遮る、人の通った形跡の見られない山道。

「林間学校!?」

 一週間を乗り越えた週末の森の中で、動物も跳んで逃げる様な大声が聞こえてきた。声を上げたのは、天宮家と共に森に足を踏み入れた信介である。

「なんだその行事は! 家の外で夜を明かすなんて危ないじゃないか!」

「だからこうして修行に来てるんでしょ」

 水色の登山用ウェアを着込んだ日和は、信介の言葉を聞き流しながら先頭を突き進んでいた。続く利久は山道でも両手でピコピコとゲーム機を操作している。信介の隣には日差し対策で帽子を目深に被った典子が居り、最後列には先日のデートと全く同じ黒ジャージを着た大我が、またしても天宮家に巻き込まれていた。

「どうして許可したんですか典子さん!」

「日和がどうしてもって言うから」

 信介の矛先は典子に向いたが、典子は特に気にしていないようにのほほんとしている。

「全く……一晩外で過ごすなど、この男一人で守れるのか」

「あ?」

 前方から見下した視線を感じて、大我は睨み返す。数日振りに信介と顔を合わせたが、やはり彼とは馬が合う気がしなかった。

「どうしてもと言うなら……」

 ぐっと右拳を握りながら、信介は折衷案を提示する。

「俺も一緒に行く!」

「ダメに決まってるでしょ」

 信介の折衷案は、日和に一刀両断された。

「何故だ日和!」

「何故って、高校の行事に信ちゃんが来ていい訳ないじゃない」

「日和の命の危機だ! そんなもの関係ない!」

「いいから信ちゃんは、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 日和の命令により、当日の信介の行動は約束されてしまう。信介が後方でやんやと異議を申し立てていたが、日和はそれを無視する事にした。

「あとどれくらいですか?」

 日和が声を掛けたのは、肩で丸くなっていたニエだ。ニエは今目が覚めたのか、日和の耳元で大きな欠伸をする。

「もうしばらくじゃ」

 ニエの言葉を頼りに、日和は山道を登り続けた。

「それより日和」

「はい」

 名前を呼ばれて、日和は耳を傾ける。

「この前話しておったエクソシストの男じゃが、其奴には十分気を付けるのじゃぞ」

「月山くん……ですか?」

 エクソシストを自称した御影の件については、既にニエに相談している。御影の名前までは覚えていなかったが、ニエは頷く代わりに喉をごろりと鳴らした。

「エクソシストは世の為ならば平気で儂達魔女を殺しに掛かる奴らじゃ。例え学校の友人であろうと、其奴を信用してはならぬ」

 古い昔になにか経験があるのだろうか。ニエは日和に厳重に忠告した。

 エクソシストの恐ろしさは日和も体験済みである。普段となんら変わらない笑顔で向けられた銃口を、日和は忘れられない。思い出しただけで、体の内側から寒気が襲い掛かってきた。

「……分かりました」

 恐怖を頭から振り落としながら、日和はニエの言葉を胸に深く刻んだ。



 もうしばらく進んだあたりでニエから「ここじゃ」と制止が入り、一同は足を止める。一同の視界に映ったのは、突如として山に空けられた巨大な空洞だった。

「これって……」

「トンネル……?」

 蔦に覆われてよく見えないが、目を凝らすと半円型に縁取られたコンクリートが見える。目の前にはトンネルを示す黄色の道路標識も突き刺さっていた。どうやらここは大昔トンネルとして利用されていたが、長い年月の末に使われなくなってしまった場所のようだ。

「ではこれから二手に分かれて修行を行う」

 日和の肩から道路標識に跳び移って、ニエは一同を取り仕切る。

「日和には儂と典子が、黒島には信介と利久がそれぞれ修行をつける」

「はぁ!?」

 ニエによって言い渡された内容に、大我は堪らず声を荒げた。

「修行ってお前が全部つけるんじゃねぇのかよ! なんで俺がこのシスコン野郎と小学生のガキに修行つけられなきゃなんねぇんだよ!」

「貴様なんと言った!」

 大我の抗議に、黙って言わせておけばと信介が怒鳴り上げる。同じく詰られた筈の利久は、ゲームに夢中でなにも聞こえていなかったらしい。

「強くなる気がないのなら断ればいい」

 ニエは標識から跳んで、枯れ葉の敷き詰められた地面に着地した。

「今のままでは一晩悪魔から日和を守り続けるなど、到底不可能じゃけどな」

「!」

 じとっとこちらを見つめるニエの瞳が、大我の心を見透かす。ニエの言っている事が正しいのは、大我も悔しい程痛感していた。果たしてこの修行で、悪魔に対抗できる力を手に入るというのだろうか。

「三時間後、この場所にまた集合じゃ。それまでは好きにするが良い」

 くるりと踵を返したニエは、「行くぞ」と枯れ葉を踏み締めていく。先を歩くニエに典子が後を追うが、日和の足はまだ動かないでいた。

「……黒島くん」

 日和の声に、大我は顔を向ける。

「頑張ってね」

 それだけを言い残して、日和は二人を早足で追い掛けた。日和達の背中はみるみる小さくなっていき、すぐに声の聞こえない範囲にまで行ってしまう。

「言っておくが黒島。俺がついていけない以上、貴様に日和を守ってもらう他術はない。なんと言おうと、貴様には修行についてもらうぞ」

 大我の背中に向けて、信介は冷酷に告げる。大我に修行をつけるなど信介としても願い下げではあったが、同行する道が断たれてしまった以上、日和を守る為にはこれしか手段が残されていなかった。

「……分かってんよ」

 そう言葉を吐くと、大我は日和とは反対方向に踵を返す。大我としても、このまま黙って林間学校を迎える訳にはいかなかった。



 開けた場所まで歩いてきた大我達は、ここで修行を開始する事にした。

「それで、お前が俺になにを教えるっていうんだよ」

 物を教授するとは思えない横柄な態度で、大我は信介に尋ねる。

 信介とは先日決闘をしたが、互いの戦闘力はほぼ互角だった。今更信介に戦闘のいろはを説いてもらったところで、今よりも強くなれるとは思えない。

「それは当然、その指輪に頼らずとも悪魔に攻撃を与える手段についてだ」

 しかし信介の回答により、大我の考えは変わった。

「攻撃できんのか!? この指輪がなくても!」

「だからそう言ってるだろ」

 大我が悪魔に攻撃を与えられるのは、典子から譲り受けた右手に光る破魔の指輪のおかげである。指輪の装備していない素手の状態であれば、大我の拳は悪魔をするりと通り過ぎてしまう。

「そういやお前、あの時悪魔に攻撃してたな……」

 大我が思い出したのは、信介と決闘をした同日。夜になって急いで天宮家に帰っている最中、殿となった信介が突然竹刀を白く光らせ、襲ってきた悪魔を容易く薙ぎ払っていた。

「どうしたら……どうしたらあいつらに攻撃が当たんだよ!」

 破魔の指輪に頼らずに攻撃が出来るようになれば、右拳だけでなく左拳や、両足での攻撃も可能になる。これは間違いなくパワーアップだ。

「フハハハッ! ようやく俺の偉大さに気付いたか! そうだ! もっと俺に教えを乞うがいい!」

「うぜぇ……!」

 高らかに笑う信介に大我は怒りを沸かせたが、ここで拳を上げる訳にはいかないと我慢して拳を下ろした。

「俺達が悪魔に攻撃を与える方法、それは……」

 信介は大我の瞳を見て、はっきりとした声で答えを告げる。

「魔法だ」

「!?」

 それは大我の予想外のものだった。

「魔法!? 俺達も魔法が使えるのか!? というか、やっぱあいつは魔法が使えるのか!?」

「当然だろ。日和は魔女だからな」

 絶対服従の命令ができる以外普通の女子高生に思えるが、日和は魔女である。魔法などアニメの世界でしか見た事がないが、やはり日和も魔法が使えるのだろう。ただ信介は、自分達の悪魔の対抗手段に魔法と答えていた。

「正しくは日和の魔力を俺達が借りるだけなのだが、まぁ俺達も魔法が使えると言って差し支えないだろう」

 説明を始める信介だったが、大我にはなにがなんだかさっぱり分からない。

「だが修行の前に、まずは日和の魔力の属性について話しておこう」

「属性?」

 また聞き慣れない単語の登場に、大我は首を傾げる。

「魔女には家系毎にそれぞれ魔力の属性がある。天宮家の魔女として力を継いだ日和には、天宮家の魔力の属性が引き継がれているのだ」

 専門用語の多いゲームのチュートリアルの様な説明に、大我は話についていくので精一杯だ。そんな大我を置いて、信介は魔力の属性について口にする。

「いいか。日和の継いだ天宮家の魔力の属性は」



 時を同じくして、日和達もまた修行を開始しようとしていた。

「さて、それでは魔法の修行を始めるぞ」

 肉球を枯れ葉の上に止めたニエは、振り返って日和の事を見上げる。

「と言っても今回は時間がないから、あくまで初歩的な魔法しか教えんがな」

 林間学校までもう日が間もない。今はとにかく日和が自衛できる手段を、手早く身に付ける必要があった。

「日和、言っておいた物は用意してきたか?」

「はい」

 ニエに問い掛けられ、日和は水色の登山用ウェアのポケットを弄る。

「突然『なんでもいいから、細長い棒状のお気に入りの物を用意しろ』って言われて、どうしようか悩みましたけど……」

 事前に言われていた準備を思い出しながら、日和は用意してきたそれをポケットから取り出す。先端に取り付けられた天使の翼が、木漏れ日に反射して輝いていた。

「なんじゃそれは」

「ボールペンです。この前買ってきたばかりの」

 先日大我と出掛けた際に購入した新品のボールペン。手にしてから日は浅いが、すっかり日和の中でお気に入りに昇格していた。

「あぁ、黒島とデートした時に買ってきたヤツか」

「!」

 ニエの発言に、日和は顔を沸騰させる。

「あら、どうしてそれがお気に入りなのかしら。お母さん詳しく訊きたいわ」

「別に変な意味じゃないから! お母さんは黙ってて!」

 娘の甘酸っぱい恋模様を勝手に妄想して、典子は期待の眼差しを向ける。こうなってはキリがないので、日和はほとぼりが冷めるまで典子を放置する事にした。

「まぁその形状であればなんでもいいわい」

 恋路に関しては興味の無さそうに呟くと、ニエは日和の足元まで歩いてきて肩に軽く跳び乗る。

「良いか日和。そのペンの先端に魔力を集めるのじゃ」

「魔力を?」

「そうじゃ。空気中に漂っているエネルギーを、その先端に集中させるイメージでの」

 ニエの言っている内容はいまいちピンとこなかったが、日和は言われた通り右手に持ったボールペンに魔力を集中させる。

 空気中に漂っているエネルギーを、先端に集中させるイメージ。抽象的なアドバイスを基に集中していると、ボールペンの先端に生えている黄金の天使の翼が、徐に淡く光り出した。

「なにこれ!?」

 周囲の空気を引き集める様にして、翼は白い光を纏っていく。次第にその力を強くなっていき、片手では持ち堪えられずに日和は両手でボールペンを掴んだ。

「先端に魔力を十二分に集めた後」

 ニエは日和と同じ視点で状況を眺めながら、教えを説いていく。

「標的を定め、それを放つ」

 光の力はボールペンに留めておけない程暴力的になり、遂には耐え切れずボールペンから一筋のビームが飛び出してしまった。

「キャッ!」

 衝撃に耐え切れずに、日和は後方に尻を付ける。日和が倒れる前にニエは肩から跳び出し、鮮やかに地面に着地していた。

 放たれたビームは、そのまま真っ直ぐ進んで正面の木に衝突する。木はビームに直撃した衝撃で大きく揺れ、上から木の葉がゲリラ豪雨の様に大量に舞い落ちてきた。

「これが……魔法?」

「そうじゃ」

 倒れたままの日和に、ニエが頷く。

「これが天宮家にまつわる基礎の魔法。周囲の空気を圧縮し、それを光線にして相手に放つ。言うなればそのボールペンが、日和の魔法の杖という事じゃな」

 圧縮された空気のビームの威力は絶大だった。今は制御できずに暴発してしまったが、制御できるようになれば日和の身を守る武器となるだろう。

「良いか日和。自分が一体どの属性の魔力を持つ魔女なのか、ここで改めて覚えておくといい」

 魔力の属性。幼い頃からニエに聞かされているので、その答えは日和も知っている。土を払いながら立ち上がった日和に、ニエは改めてそれを口にした。


「お前は、空の魔女じゃ」


 駆け出しの空の魔女の修行を応援するかの様に、山風が優しく日和の髪を靡かせた。

バトル展開を描くにあたって、魔法に属性が欲しいと考えました。

日和の属性は空です。こういった属性を考えるのは、いくつになっても楽しいものですね。

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