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魔女ちゃんの仰せの儘に!  作者: 越谷さん
【第1章】魔女ちゃんの日常

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【第11話】魔女ちゃんのグループ決め

 林間学校。五月下旬に行われる服巻高校一年の最初の行事。街から離れた山間の自然豊かな施設で、野外炊事やレクリエーションをしながら仲間達との絆を深めていくのが目的である。尚、施設には宿泊できる部屋も用意されており、林間学校は一泊二日で行われる。

 自分の机に入れっ放しになっていた学級だよりを、大我は今になって目を通していた。

「……無理だろ」

「無理じゃない!」

 記されていた林間学校の概要に、大我は早朝の誰も居ない教室で日和にそう言い捨てる。日和は現実を受け止めきれないのか、目も耳も強く塞いでいた。

「だってお前家の結界がないと悪魔が襲ってくるんだろ? 結界のない場所で一晩明かすとか、そんなの無理に決まってんだろ」

 日和が魔女の力を解放してから、毎日夜が来る前に日和を家に送り届けている。少し遅くなっただけで、今まで何度も襲われてきたのだ。そんな状況で家の外で一夜を明かすなど、到底不可能だろう。

「なによ! 私の事死んでも守ってくれるんじゃなかったの!?」

「事前に対策できんのならそれに越した事はねぇだろ!」

 日和の反論に、大我は耳を赤くして言葉を返す。昨日は御影の挑発に乗せられて、つい余計な一言を口にしてしまった。

「うぇーん! 折角皆とお泊まりできると思って楽しみにしてたのにー!」

 堪らず涙が溢れてきて、日和は両手で顔を塞ぐ。学級だよりが配られたのは、日和が魔女の力を解放する前。当時の日和は林間学校の文面に、心をワクワクさせていた。

「……今日の六限に、これの話があるんだっけか?」

 『これ』についてと、大我は学級だよりを持ち上げる。

「うん。レクリエーションの班決めとか部屋割りとか、そこで話し合いするみたい」

 六時限目のLHR。そこで間近に迫った林間学校について、色々説明がされるようだ。

 前の黒板の時間割に書かれた林間学校の文字を大我は見つめる。最終的な結論は、そこで説明された内容を踏まえてから決める事にした。



 それから数時間をいくつかの授業で浪費していき、ようやく六時限目のLHRがやってきた。眼鏡を掛けた担任の男性教師が、まずは先日配った学級だよりを基に簡単に説明していく。可愛いフォントやイラストが使われた学級だよりを作成した教師にしては、その説明は堅苦しく遊び心がなかった。

「それじゃあこれからレクリエーションを一緒に行うグループを、男女五~六人で作ってくれ。学習する為のグループ決めだから、ただの仲良しグループにならないように」

 スタートの合図に合わせて、生徒は一斉に席を立つ。教師の話などまるで聞こえていなかったかのように、仲の良い友人同士で楽しく談笑を始めていた。

 そんな教室の空気から爪弾きにされた様に、大我は自分の席に座ったまま学級だよりを凝視する。

 ――グループ決めな……行くなら天宮と同じグループになった方が良いんだろうけど。

 林間学校中日和を悪魔から守り抜くには、一緒に行動できる同グループになるのは必須だろう。そうは思いつつも、大我は自分の席から動く気にならなかった。

「黒島ー」

 そんな中、大我の名前を呼ぶ声が前方から聞こえてきた。

 学級だよりからそちらに目を向けると、こちらに向かって歩いてくるクラスメイトが一人。その今にも寝落ちしてしまいそうな程の目の下のクマに、大我は最近見覚えがあった。

「……佐藤」

「おっ、名前覚えてくれたんだ。嬉しいねー」

 桂馬は嬉しそうに表情を崩すと、空いていた大我の前の席に腰を下ろす。

「なー黒島。一緒にグループ組もうぜー」

 大我の机に体を預けて口にした桂馬の言葉に、大我は目を見開いた。

「……俺と?」

「おー」

 豆鉄砲を食らった様な大我に、桂馬は気怠げに声を返す。

「最近一緒に授業受けてる黒島見てたら、案外噂程悪い奴じゃないように見えてさ。寧ろ凄ぇ面白い奴なんじゃねぇかって、どっかで話せるタイミングないか窺ってたんだよ」

 大我の右斜め前に座っている桂馬は、授業中こっそりと後列の大我の様子を盗み見ていた。教科書を開いて語る教師の解説に憤りを見せながらも、行儀良く席に座って解説に耳を傾ける大我の不可解な様子に、桂馬はいつも笑いを堪えるのに必死だった。

「おい桂馬ー、こっちのグループ来いよー」

「あー悪ぃ、俺今回こいつと組むからー」

 髪型を明るく染め、制服を着崩した所謂陽キャグループからの誘いを、桂馬は即決で断る。陽キャ達は桂馬の前に座る大我を見て、ビクつきながら思わず顔を逸らしていた。

「……いいのかよ」

「いいんだよ。あいつらとはいつも遊んでるし」

 口振りからして、桂馬は彼らと仲が良いのだろう。しかし桂馬の心は元から決まっていた。

「それより今回は、お前と仲良くなりたいんだよ」

 下から覗き込むようにして、桂馬は大我に目を向ける。その眠気眼が一体なにを考えているのか、大我には全く分からなかった。

「さて他のメンバーは、と……」

 大我を半ば強制的にメンバーに引き込んだ桂馬は、他のメンバーを求めて教室を見回す。すると窓際の席で、ちらちらとこちらを意識している女子生徒の姿が見つかった。

「まぁ、やっぱ誘わないとな」

 桂馬はニヤリと口角を吊り上げると、徐に立ち上がった。

「天宮さーん、本田さーん」

「おい!」

 日和と真琴の席まで手を振りながら歩き出した桂馬に、大我も慌てて後を追う。こちらに向かってくる二人に日和は驚いた目を向け、真琴はあからさまに不機嫌を顔に出した。

「佐藤くん」

「もうグループ決まった?」

「いや、まだ私達二人だけだけど……」

「それじゃあ俺達と一緒に組もうぜー」

「えっ!?」

 桂馬からの提案に、日和は思わず声を漏らす。

「なんで佐藤が私達と組みたがるのよ」

「だって折角の機会なんだから、色んな人と仲良くなりたいじゃん」

 どこか訝しんでいるような真琴の鋭い視線を、桂馬は軽く受け流した。

「それに、黒島も天宮さんと一緒の方がなにかと安心だろ?」

「「!」」

 桂馬の発言に、大我と日和は目を見合わせる。普段いつも一緒に居る大我と日和を気遣っての発言なのだろうが、今の二人の状況にその発言はクリーンヒット過ぎた。

「アンタ、黒島と仲良かったの?」

「別に? でもこの林間学校でマブダチになる予定だぜ」

「どんな自信だよ」

 自信満々に親指を突き立てる桂馬に、真琴は深く溜息を吐いた。

「……うん、私は大丈夫だよ。真琴ちゃんは?」

「日和がいいならいいけど……」

 首を縦に頷いた日和に、真琴も渋々承諾する。これで林間学校のグループメンバー四名が決定した。

「よっしゃー決まりー」

「んで、あとどうすんの。少なくともあと一人は必要だけど」

 教師は男女五~六人でグループを組むようにと言っていた。メンバーは最低でもあと一人必要だが、教室を見回した限りグループは既にいくつか完成しているように見えた。

「んー誰か居ねぇかなー」

 目の上に掌を当てて、桂馬は教室を隈なく注視する。するとグループ同士で談笑し合う中、一人だけ自分の席に座り込む人影が見えた。

「お?」

 桂馬は早速その席に向かって一人歩き出す。

大森(おおもり)

 席に辿り着くと、桂馬はその人影の肩にぽんと手を置いた。

 桂馬の置いた手に大森は振り返る。目元を前髪で塞いだ黒髪の天然パーマでは、こちらの顔が見えているのか確認できない。両手で開いた分厚い文庫本を見る限り、その長い前髪でも目視はできているのだろう。

 文庫本のタイトルは『ケモナーオタクが転生したのは登場人物全員ネコミミのネコミミ異世界でした』。どうやら彼は外見通りのオタクのようだ。

「……なに?」

 ライトノベルの読書を中断して、大森は桂馬の声に答える。

「大森ってもうグループ決まった?」

「いや、まだ決まってないけど」

 グループ決めの時間にも関わらず、今までずっと読書に勤しんでいたのだ。本の世界に没頭する大森に、誰も声を掛けられなかったのだろう。

「それじゃあ俺達のグループに来てくれよ。今一人足りてなくて丁度困っててさー」

 桂馬は大森の肩に置いていた手を、そのまま反対の方へと回す。持ち前のコミュニケーション能力は桂馬の類稀なる長所だ。

「……別に良いよ」

「マジ? ありがとー助かるぜー」

 数秒考えた後出した大森の回答に、桂馬は心底喜んだ。他のメンバーに紹介するべく戻っていった桂馬に、大森も読みかけの本を手にしたままついていく。

「あと一人見つかったぞー」

 戻ってきた桂馬が連れてきた大森に、一同は視線を集めた。

「……えーっとアンタは」

「よろしくね、大森くん」

「わっ、黒島……」

「あ?」

「じゃあ俺先生に報告してくるなー」

 大森の名前を思い出せずに硬直する真琴の隣で、日和が名前を呼ぶ。大森はというと同じグループに入っていた大我に、恐怖で天パの前髪から冷や汗を噴き出していた。

 寄せ集めで決まった、性格も正反対な五人グループ。このグループでどのような林間学校になるのか、今は誰も見当がつかなかった。



 その後グループ毎でレクリエーションの話し合いを行い、LHR終了のチャイムが鳴り響いた。

 帰り支度を済ませて教室を出た大我と日和は、真っ直ぐ帰り道を歩く。普段はなにかと言い合いになる通学路だが、今日はなにも聞こえない。大我の隣を歩く日和に、あまり元気がないからだろう。

「……やっぱお前、当日は休んだ方が」

()()()()()!」

 日和の命令に、大我の口は塞がる。グループまで組んでおいてなんだが、やはり日和の林間学校の参加は難しいように思えた。

「……分かってるわよ自分でも」

 その考えは日和も同じである。

「自分の命を守る為だったら、林間学校には行かない方がいいってのは分かってる。でも……」

 日和は左手で、自分のスカートの裾を弱く握る。

「私だって……皆と一緒に思い出作りたいよ」

 クラスの仲間とレクリエーションをして、一緒にご飯を作って、きっと掛け替えのない思い出が出来るのだろう。そんな青春の一ページを、日和も一緒に刻みたかった。

 薄らと涙を滲ませる日和の横顔を、大我は見つめる。

「……ん?」

 なにやら隣でもごもごと聞こえるのに気付いて、日和は目を向ける。そこには命令によって口を塞がれていた大我が、必死になにかを伝えようと荒ぶっていた。

「あーごめんごめん! ()()()()()()()()!」

 命令解除により、ようやく大我の口は自由を取り戻す。息苦しさから解放され、ゼーハーと呼吸を整えながら、大我は言葉を吐いていった。

「……まぁ、ここで逃げたらどうせあいつに後から狙われるだけだしな」

 思い出すのは昨日の御影の憎たらしい笑顔。この林間学校で、御影は大我と日和の実力を見極めると言っていた。ここで逃げてしまっては、今度こそ日和を本気で殺しに掛かるかもしれない。

「つってもこのままじゃ無駄死に確定だぞ。なんとか一晩無事で居られる方法はねぇのかよ」

 無策で林間学校に向かって、無事で帰ってこられるとは到底思えない。大我の問い掛けに、日和は懸命に頭を働かせた。

「……ニエ様に相談しよう」

 日和の出した案に、大我は首を傾げる。

「ニエ様?」

「私のおばあさんのおばあさんの、そのまたおばあさんくらい先祖の魔女だよ。今は魔法の力はほとんどないんだけど、困った時はいつも私達の事を助けてくれるの」

「めちゃくちゃババアじゃねぇか……」

 そんな昔の人間が今も生きているとは考え難いが、魔法という現象を知っている以上簡単に否定も出来なくなっていた。

「誰か知らねぇが、そのニエって婆さんならなんか分かるかもしれねぇんだな」

 曖昧な情報だが、今は藁にも縋りたい。すぐにでもニエという人物を見つけ出し、首根っこをひっ捕らえて情報を聞き出す所存だ。

「誰って……黒島くんももう会ってるでしょ」

「あ?」

「着いたわよ」

 日和の言葉に大我は疑問符を浮かべる。生まれてこの方、ニエという変わった名前の人間には出逢っていない筈だ。

 話している間に赤い屋根の天宮家に到着し、日和は扉に向かう。いつもならここで解散するのだが、今日は何故か「()()()()!」と日和からの命令があり、大我も一緒に家に上がる事となった。

「ただいまー」

「おかえりー。あら黒島くんも」

 リビングに入ると、キッチンで夕食の準備をしていた典子が出迎えてくれる。大我は典子に声を返す事なく、ただリビングに足を踏み入れていった。

「お母さん、ニエ様は?」

「あれ? さっきまでそこに居たと思うけど」

 ニエを探して日和はぐるりとリビングを見回す。天宮家に何度か足を踏み入れた事のある大我だが、数百歳も生きているような老婆はこの家に居なかった筈だ。大我の疑問符は更に膨れ上がる。

「儂になにか用か?」

 不意に声が聞こえて振り返り、大我は思わず目を疑った。

 スタスタと四足の小さな足でこちらに歩いてくる黒猫。後ろに生えた長い尻尾は挑発的に揺れており、そのじとっとした瞳はどこか人を苛立たせる。幻聴でなければ、先程の声は間違いなくこの猫から聞こえてきた。

「ニエ様!」

 黒猫に駆け寄って身を屈めた日和に、大我は確信する。

「この猫が……天宮のババア!?」

「全く、こいつはいつになっても口が悪いのう」

 目線を合わせる日和と驚愕する大我の横を通り過ぎて、ニエはお気に入りの寝床に向かう。足を乗せただけでゆっくりと沈む紫色の寝床で、ニエは尻尾を巻いて丸くなった。

「ニエ様! 今度学校で林間学校があるんです!」

 鞄から学級だよりを取り出し、日和は床に置いてニエに見せる。猫が文字を読んでいる現状に、大我は頭がこんがらがってしまった。

「危険なのは分かってます! それでも私、どうしてもこれに参加したいんです! なにか良い方法はありませんか!?」

 ニエがプリントから目線を上げると、両膝を床に突いた日和の懇願が目に入る。その表情から、日和の林間学校に向けての熱意がひしひしと伝わってきた。

「……成程。家を出て、外の宿舎に一泊するのか」

 学級だよりの文章を読んで、ニエは日和の頼みを理解する。

「日和、それに黒島」

 ニエに名前を呼ばれて、大我も顔を上げる。黒猫に名前を呼ばれるとは、なんとも不思議な感覚だ。

「お前ら覚悟はできとるんじゃろうな?」

 夜になった様に黒目を縦に細くしながら、ニエは二人に覚悟を問う。その気迫はただの猫が出せるようなものではなく、魔女としての存在感を大きく醸し出していた。

 ニエの気迫に気圧されながら、大我は固唾を飲む。

「……上等だ」

「私も! なんでもする覚悟はできています!」

 大我に続いて食い気味に、日和も大きく肯定する。二人の覚悟を、ニエは静かに三角の耳で聞き入れていた。

「そうか……」

 ニエはふと瞼を閉じると、開眼に合わせて二人に言い渡す。

「では次の週末、修行に行くぞ」

 ニエの口にした修行の内容。それが一体どれだけ過酷なものか、この時の二人はまだなにも知らないでいた。

今回は新キャラ一人と一匹が登場しました。

なにかマスコット的な喋る動物が欲しくて、ニエというキャラが生み出されました。結果的にあまりマスコット感のないキャラになりましたが。魔法が題材ですし、動物の種類は黒猫にしました。前作も喋る猫が登場しましたが、作者は根っからの犬派です。

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