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転生担当の神ですが、本当の自分をそろそろ知りたい~ゼフィリア幻想譚~  作者: 松本ごはん
第一部:神の迷いと百人目の魂

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第7話 迷い込んだ魂の囁き

ミランが《根源記録庫》の重い扉を閉め、白い管理室へ戻った、その直後だった。


静寂を破るように、異変が起きた。


机の上に置かれた転生水晶が、まるで内側から灼かれているかのように激しく震え始めたのだ。

本来なら、魂を待つ間は沈黙を保ち、淡い光を宿すだけの器。その水晶が、不規則な振動とともに異様な光を放っている。


それは神界特有の揺らぎではない。

世界の法則そのものが軋むような、不快な不協和音だった。


「……これは……」


近づいたミランは、すぐに異常に気づく。


水晶が放つ光は、彼が転生者を迎え入れる際に見る、あの包み込むような温かさを持っていなかった。

むしろ――拒絶。

あるいは、悲鳴。


「転生履歴が……ない?」


ミランは即座に水晶へ手をかざす。


通常、転生を待つ魂には、必ず前世の記録と次の生の情報が付随する。

だが、水晶の内部に漂うそれは、どこから来たのかすら判別できない“純粋な魂”だった。


神界の記録にも、監視系統にも存在しない。

記録そのものをすり抜けて現れた、あり得ない存在。


ミランが愕然と見守る中、魂は――ゆっくりと輪郭を持ち始めた。


黒い長髪。

そして、記憶に焼き付いて離れない、無垢な面影。


「……ミラン、様……?」


かすかな声が響く。

それは、水晶を通した音ではなく、直接、彼の意識に触れる声だった。


「……リュシア……?」


名を口にした瞬間、胸の奥が軋んだ。


彼女は、かつてミラン自身が奇跡を約束し、ゼフィリアへ送り出した転生者の一人。

だが転生後まもなく、記録は途絶え、彼女は“魂の欠け”の最初の発生源として処理された存在だ。


それ以上、追うことを禁じられた魂。


「なぜ、ここに……? 君は、生を終えたはずだ。魂はシステムに回収されるはずが――」


混乱を隠せないミランに、リュシアは静かに微笑んだ。


だがその表情は、彼の知る無垢な少女のものではない。

どこか達観し、そして冷たい――まるで“神に近づいた”存在のようだった。


「ミラン様。あなたは、まだ知らないのですね」


声は優しい。だが、容赦はなかった。


「この転生の仕組みが、誰のために作られたのかを」


その瞬間、空間が軋む音が走った。


白一色の神界に、透明な硝子へ亀裂が入るような影が、縦横に広がっていく。

この空間そのものが、リュシアの存在に耐えきれず、歪められている。


彼女の瞳が、深く、冷徹な金色に輝いた。


「創造神アルマ様は、最初からあなたを“鍵”として創った」


ミランの背筋が凍る。


「それは、この世界を救うためではありません」


リュシアは、一歩も動かず、真実だけを突きつける。


「“原初の光”は、もう神界には存在しない。それを奪ったのは――あなたの“本体”です」


ミランは息を呑んだ。


「創造神アルマ=ヴェルディア。あなたを生み出した存在が、分霊であるあなたから、世界の真の創造力を奪った。その欺瞞こそが、この世界を歪めている」


言葉を失う。


印章に名が刻まれなかった理由。

己が“機能”として閉じ込められていた理由。


すべてが、繋がった。


――彼は鍵ではない。

光を奪われ、世界の監視を強いられた“檻”だったのだ。


リュシアは、それ以上語らなかった。


その姿は、淡い光の粒子へとほどけるように消えていく。

後には、彼女が触れていた転生水晶の上に、小さな結晶だけが残された。


淡く、しかし異様な輝き。

魂の核が凝縮されたかのような存在。


ミランは震える手でそれを掬い上げる。

そこには、リュシアの強い意志と、底知れない絶望が宿っていた。


「……ならば」


彼は、ゆっくりと顔を上げた。


碧い瞳に、もはや迷いはない。


「確かめねばならない」


視線は、白い神界そのものを射抜いていた。


「この“神界”が、真実なのかどうかを」


ミランは静かに机へ向き直る。

彼の使命は、すでに変わっていた。


転生を導く神ではない。

創造神アルマの欺瞞を暴き、奪われた原初の光を取り戻す者として。


白い世界は、何も答えない。

だが、確かに――揺れていた。

第一部 完

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