表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生担当の神ですが、本当の自分をそろそろ知りたい~ゼフィリア幻想譚~  作者: 松本ごはん
第一部:神の迷いと百人目の魂

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/21

第4話 根源記録庫の扉

ミランは、白の間の静けさを背に受けながら、根源記録庫へと歩みを進めていった。


この空間では音が響かないはずだ。それでも、自分の心臓の鼓動だけがやけに大きく胸の奥で鳴り、足取りは鋭く緊張を帯びていた。

――ここから先は、神であっても踏み込むべきではない領域。

そんな本能的な警告が、無言で背中に重くのしかかっていた。


根源記録庫への道は、白い虚空の奥に広がる無数の光の糸で構成された領域だ。

一本一本の光は転生記録。無数の魂の流れが編まれ、世界の理を繋ぎ止め、巨大な織物のような輝きを形づくっている。


その光の海のさらに奥――かつて一度だけ遠目に見た“最奥”だけは、まるで別の世界だった。


そこだけ空間が重い。

知識、時間、真実。あらゆる重さが凝縮したような密度で、空気がわずかに歪んで見える。


「……ここだ。」


ミランは長い沈黙の末に立ち止まり、巨大な扉を見上げた。


分厚い石造りの扉。その表面には、生きているかのような光の鎖が何重にも絡みつき、中心には金色の紋章が脈動している。紋章は一定の周期で淡い光を放ち、扉全体を静かに守っていた。


そのとき、空中に淡い文字が浮かび上がる。


《立入禁止。創造神アルマの命により、封鎖継続中》


冷たく、絶対的な警告。

ミランは喉がひりつくのを感じた。


創造神アルマが、世界誕生の最初期に封印した最深部。

神界の研修で聞いた伝承では、この扉は「触れてはならない境界」として恐れられていた。


――その扉の向こうに、自分の起源がある。


そう思うだけで胸が締めつけられる。タクトの言葉、魂の欠け、そして地上に残った歪みの残滓。そのどれもが、ミランをここへ導いた。


「アルマ様の意志が最も強く残る場所……そして、僕が生まれた理由。」


震える指先で、ミランは金色の紋章へ手を伸ばす。


触れた瞬間。


胸元の“名のない銀の印章”が、熱を帯びて微かに脈動した。

普段は飾りのように静かなそれが、彼の鼓動と同期するように光を放ち、刻まれていないはずの紋様が浮かび上がる。


――カチリ。


紋章と印章が重なった。

まるで、最初からそうあるべきだったかのように。


「……一致した?」


ミランは息を呑んだ。


創造神が封印に用いた絶対の紋様。それに、自分の印章が完全に同じ形で応えたのだ。

偶然で済むはずがない。


胸の内で、答えの輪郭が形を持ち始めていた。


「なあ、ミラン。あんた、本当に神様なのか?」


タクトの問いかけが胸を刺す。

ミランはその言葉を、今はもう否定できなかった。


「もし、僕の存在自体が……この扉に触れるためにあるのだとしたら。」


ミランは銀の印章を強く握りしめた。光がさらに強くなり、扉に絡む鎖へ吸い込まれていく。


次の瞬間。


ガリッ……ゴゴゴゴゴォ――!


白い空間には似つかわしくない轟音が響く。

光の鎖が一本、また一本とほどけ、光の粒へ崩れ落ちていく。封印が、“持ち主”の帰還を認めたように。


やがて、扉はゆっくりと開いた。


その先の風景に、ミランは思わず息を呑んだ。


「これが……《根源記録庫》……。」


扉の向こうは、世界そのもののように広大な書架の海だった。

果ての見えない高さまで積まれた書架。そこに収まる書は重力を無視し、光の糸に結ばれて宙を漂っている。

書物というより、“記憶の結晶”。


ここには、創世から現在までのすべての理が記録されている。神々の系譜。転生システムの骨格。そして、創造神アルマが世界を夢見た理由――あるいは、隠したいほどの罪の記録までも。


ミランが一歩足を踏み入れると、いくつかの書が微かに揺れ、光が彼の周囲で柔らかく瞬いた。

その温度はどこか懐かしく、まるで自身の記憶が混ざっているかのようだった。


書架の迷宮を進んだ先、空間の中央にそれは浮かんでいた。


他の書とは明らかに違う、ひときわ強い光を放つ書。


表紙は神代文字で彩られ、金の縁取りが呼吸するように淡く揺れている。

近づくほどに胸の奥がざわつき、むき出しの真実に触れる予感が全身を撫でた。


ミランはそっと手を伸ばし、その書に触れる。


まるで待っていたかのように、書は静かに彼の手へと収まった。


表紙には、明確に記されている。


――『神々の系譜』


「……世界を創った存在の始まり。」


呟きはかすかに震えていた。

そこには希望も不安もあったが、何より“知るべき時が来た”という確信が勝っていた。


ミランは深く息を吸い込む。


「僕は――僕が何者なのかを知らなければならない。」


強くそう宣言し、彼はゆっくりと第一頁を開いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ