第19話 創造神の絶望との対面
ミランは、背中の折れた羽根が放つリアの光に導かれ、創造神アルマの意識の最も深い層、**『夢の続き』**の扉を見つけた。それは、他の記憶の断片とは一線を画す、堅牢な意志で築かれた、最後の障壁だった。
扉を開くと、空間は一変した。そこは、アルマの意識の海が流れ込んだ純粋な闇の世界。光も色も、あらゆる感覚が飲み込まれるような静寂と虚無が支配していた。
闇の奥、ミランの意識の中心からわずか数歩離れた場所に、黒衣を纏った青年が静かに立っていた。
「待っていたよ、ミラン。ここまで辿り着くとは、さすがは私の分霊だ。」
その青年――残響は、ミランと瓜二つでありながら、その瞳の色は、創造神アルマの碧でも、ミランの今の碧でもなく、純粋な漆黒だった。彼の存在そのものが、**『無』**への渇望を体現していた。
「あなたが、創造神アルマの影の意志。アルマの**『終わらせたい』**という願いの体現者か。」
「そうだ。」残響は静かに答える。彼の声には、深い諦観が滲んでいた。「私はアルマが抱えるすべての絶望と諦観だ。そして、私は知っている。お前が持つ**『原初の光』**が、アルマの創造神としての力を凌駕し、この世界を終焉させる力を持つことを。」
残響は手を広げ、周囲の闇を見せた。その闇は、無数の魂の欠けが凝縮した、終末の光景だった。
「この世界全体が、創造神アルマの見る『夢』だ。人々が苦しんでいるのではない。夢の中の登場人物が、シナリオ通りに苦しんでいるように見えるだけだ。その苦しみに意味はない。」
残響は、ミランの足元を嘲笑する。
「その証拠に、お前が導いた魂は、絶望というシナリオを辿り、黒い染みを残して消えた。それこそが、アルマの夢の不完全性であり、この世界をリセットすべき理由だ。」
「それは違う。」ミランは強く言い放った。彼の背中の羽根が、闇の中で強く輝く。「タクトの疑問、リュシアの怒り、リアの愛……それは、夢ではなく、本物の感情だ!」
「本物?」残響は首を傾げる。「悲劇や絶望が本物だと? くだらない。アルマは、もう疲れた。この夢を永遠に終わらせたがっている。お前という**『鍵』**を使って、すべてを無に帰したがっている。」
残響は、ミランが神界から持ち出した銀の印章を指さした。
「お前は、神の**『機能』。お前の役目は、このシステムを破壊すること。さあ、私と一つになり、世界を終わらせる『夢の終焉』の力を完成させろ。それは、お前自身の救済**でもある。」
闇がミランの全身を覆い始める。それは、魂を誘惑し、絶望へと引きずり込むアルマの負の感情そのものだった。しかし、ミランは一歩も引かなかった。リアの光が、闇に抗うように、強く彼の全身を包む。
「僕は、あなたとは違う。」
ミランは、背中の羽根を強く握りしめた。
「僕は、アルマの絶望を終わらせるために来た。だが、それは破壊ではない。リアが僕に教えてくれたように、この世界を**『現実』へと目覚めさせる『新しい案内人』**となるために来た。」
ミランの瞳は、漆黒の闇の中でも、希望を映す碧い光を放っていた。彼は、残響の誘惑を完全に拒否した。




