初雪と日の出と狐の兄弟と
山装い雪を戴いた北の大地で、二匹の子狐が駆けていました。
「兄さん! 早くしないと、人間が起きちゃうよ!」
「慌てるな弟よ。もうすぐいいものが見られるんだ」
「いいもの?」
二匹の子狐は真っ白な丘の上で立ち止まりました。空は淡い桃色だったのが、溶けるように明るい蒼へと移ろいでいきます。
「あ」
弟狐は息をのみました。山頂から日が顔を出し、その光が銀世界を照らしました。丘に積もった雪は燦々と光を放ち、露を宿した紅葉はみずみずしく輝きました。
「綺麗だね、兄さん」
「ああ。秋と冬の狭間の、それも日の出の時だけ――ほんのわずかな時間しか見られないんだ、この景色は」
二匹が話しているうちに、日は完全に昇り、朝になりました。兄狐はねぐらに向けて歩き始めます。弟狐もそれについていきました。
帰り道、弟狐は興奮気味に言いました。
「僕、この景色絶対忘れないよ! ああ、今日寝られるかなぁ!」
「もし夕方になっても起きてこなかったら、お前の分も食べ物を持ってきてやるよ」
「ありがとう! 兄さん大好き!」
そこにはじゃれながら帰る二匹の子狐がいました。冬の足音が静かに迫っていました。