影の怪奇調査録
どうも皆さん。緒蘇輝影丸です。
今回は、生存報告とまだ活動を続けますという意思表示として少し趣向を変えてみました。
一応ホラーサスペンスの短編です。楽しんでいただければ、幸いです。
20XX年9月6日 ○○県■■市???-?? アパート△△ 206号室にて、##会社に勤めていた事務員の女性Aさん(機密情報故一部しか開示不可)の死体が発見されたという概要のファイル
最初の発見者は、同じ会社の社員(担当は別)で同じアパートの住人であり、彼女の隣、205号室に住む女性Bさん。Aさんの様子を見に大家さんから合鍵を貰って扉を開けた時に彼女を発見し、通報した。
司法解剖によると、残暑により死体の一部が腐敗してて判明し辛かったが、死亡推定時刻は三日前の深夜から明朝、つまりは9月3日の11時頃から4日の4時半頃の間に、アパートの一室でAさんが、何者かの手によって背後から惨殺された様子。凶器はおそらく包丁(持ち逃げもしくは自前なのか所在は不明)。■■警察署の者達の捜査によると、ここまでは理解出来るが、いくつか不可解な点があるという。
それは、発見された状況である。Aさんの死体を最初に発見したBさん曰く――――。
「出勤時間が一緒の為、片方が寝坊等で出発が遅れそうになったらドアを叩くなりして催促をし、来たら一緒に出発するのが日常でした。それで、三日前は体調不良かと思って会社にAさんの欠勤を報告し、その日の帰りに風邪薬を彼女の部屋のドアに付いている郵便受けに買った袋ごと入れました。けど、その翌日の朝に郵便受けを確認したら、そのまま残っていたんです。その時はまだ寝込んでいるのかと思い、チャットで薬の事と安否確認を送った後に出勤して、帰りにもう一度郵便受けを確認しました。まだ残っていましたし、チャットは返事どころか既読すら付いていない事で心配になり、その時は受付時間外だった為に明日大家さんから合鍵を貰って確認しようと思いながら寝ました。その翌日に大家さんから合鍵を貰って開けた所で、血だらけのAさんが……」
――――との事。それらを聞いた警察は、AさんとBさんの関係性を見て、もしかしたらBさんは嘘を吐いているのではと思い、容疑者として事情聴取を行ったのだが、Bさんは「確かにAさんとは友人関係ではないが、嘘は吐いていない」と怒鳴るように強く否認。ならば、アリバイの確認として二人が勤務している会社と大家さんに聞いた所、Aさんの欠勤、Bさんの勤務、合鍵の貸し出し、いずれも特に矛盾した点はなかった。しかし、そうなるとAさんは、右手に携帯電話を持ったままの状態かつ自分の部屋に鍵をかけた状態、つまりは密室で命を落とされたという、到底自殺とは思えない死に方をしているという事になる。しかも、現場周辺で不審者を見たという情報も一切ないし、部屋に誰かいた形跡もないという完全犯罪に近い事件である。
とりあえず遺体と携帯電話の回収を済ませたが、捜査が難航してしまい困った警部は、とある噂の調査班『怪奇調査班』に依頼の電話をかけた。存在が謎という事もあり、噂を鵜呑みするつもりはないが、ここまでの事件ともなると、一周回って怪奇現象によるものではないかと疑ってしまう。正直怪奇現象なんて信じない警部だが、今回のような事件の解決率はそれなりに高い実績を持っているようなので、一度だけ確かめて、怪奇調査班が無能だった場合、怪奇現象でない事もとい、幽霊や呪いなんてモノは存在しないという証明になる。という警察としてのプライドの下、怪奇調査班に協力を仰いだ。
そこへ派遣されたのは、手袋や靴、中折れ帽も含めて全身黒ずくめの格好した男性アンブラである。帽子を目深く被っているため、目元は影がかかって相手からは見えにくい状態、傍から見れば胡散臭さ全開の男である。怪奇調査班もとい事前の連絡には無い者であったなら間違いなく不審者として容疑をかけていたであろう。しかし、こういってはなんだが、彼はまだマシであり、怪奇調査班の中では“アタリ”の部類である。ほかの調査員は途中で調査を止めるくらい気まぐれだったり、気味の悪い笑みを浮かべたり、とある場所で起きた事件しか来ないといった一癖二癖あるヒト達であるのだから。
早速アンブラが現場の調査を行ったが、Aさんの近くにあったとある物を見た途端、彼は突然変な事を聞いてきた。
「彼女は人形遊びが趣味なんですか?」
事件とは全く関係ないだろうと言いたい所であるが、脈絡があろうがなかろうが、遺族への連絡がてら人形について聞いてみて欲しいと頼まれてしまった。警察は戸惑いを隠せないまま、Aさんの実家に連絡をした。応対してくれたのは、Aさんの母親であった。彼女の訃報を聞き、泣いていたのだが、警察は助けられなくて申し訳ございませんと謝り、そこから「人形で遊ぶ可愛らしい子でしたか?」とさりげなく聞いてみた所、「えぇ。昔からクマのぬいぐるみが好きでした」との事。聞いた警察は改めてAさんの母親に謝罪してから電話を切り、アンブラに伝えた所、クマのぬいぐるみは今何処にあるのかと聞かれた。アンブラの発言に疑問を浮かべつつ、BさんやAさんと仲の良かった社員達に聞いた所「昔からクマのぬいぐるみが好きではあるが、歳を重ね、大人になってアパートに引っ越してからは大きいのを買わなくなり、今は通勤鞄と自分のアパートの鍵に小さいクマのぬいぐるみのキーホルダーを付けている」と答えた。それを伝えた所、アンブラは一つの西洋人形に指を指して見せた。
「……では、あの人形は誰のお友達ですか?」
それは、整っている顔といった本体は綺麗ではあるが、身につけている青いドレスのような服は薄汚れており、何処か可愛くも可哀想で、夜に見かけたら少し不気味にも感じる見た目をした、ウェーブがかかった茶髪ロングの女の子に模した人形があった。警察は、人形遊びが好きなんだから、それも持っていても別におかしくはないのでは?と言ったが、アンブラは人の話を聞いていなかったのかと呆れるように溜め息を吐きながらも、Aさんの母親の発言を改めて言った。
「昔からクマのぬいぐるみが好きでした。……つまり、Aさんにとってこの子は自分の趣味に合っていないのに、何故か此処にいる。……疑問に思いませんか?」
そう言われて、昔から遊んでいたのでは?と思ったが、Aさんの母親と電話していた警察が聞き込みを行っている警察に西洋人形について聞くように連絡してみると、少し時間をおいて大家さんに聞き込みをしていた警察の一人が、四日程前にAさんが持っていたのを大家さんは見たという情報が入った。たまたまAさんの通勤鞄の隙間から人形の脚が見えたという。その時は、私物だと思っていて特に気にしてなかった模様。
「……彼女のケータイは何処に?」
これ以上は探っても進展はないと感じてか、アンブラはAさんの携帯電話の行方を聞いてきた。先程までの変な質問から急にまともな質問に変わった事で警察は多少面を食らったが、何かしらの手がかりはないかと思い、回収して履歴の確認等を行っていると答えた。
「……分かりました。何か進展等がありましたら、ご連絡下さい。……それでは」
それを聞いたアンブラは、一度自分の調査を切り上げた。
「あぁそうそう。その子にはまだ触らない事をお勧めします。今回の事件の鍵ではありますが、同時に目印のような存在ですので」
しかし、現場を立ち去る前に、アンブラは警察達に釘を刺しておいた。まだ確信と確証を得てはいないですが、という言葉を付け加えて、現場を離れた。
翌日。アンブラは■■警察署に呼び出された。理由は、携帯電話の解析等が終わった事と、いくつかの不可解な点について、アンブラの意見を聞きたいからとの事。彼女の携帯電話の着信履歴によると、9月4日になった直後、午前0時と少し経った頃から同じ番号の電話が何件も着いたらしい。それにAさんは三回程電話に出たようだが、四回目以降は留守番電話になっていた。先に警察達が聞いた所、恐らく彼女の住むアパートの近くまで来た事を伝えて以降、Aさんは電話に出ないようにしたかと思われている。ひとまず、アンブラもその留守番電話に残っているメッセージを聞いた。
〈…私…リーさん。今、二階に繋がる階段の前にいるの〉
〈…私…リーさん。今、二階まで上りきったの〉
〈…私…リーさん。今、201号室前にいるの〉
〈…私…リーさん。今、202号室前にいるの〉
〈…私…リーさん。今、203号室前にいるの〉
〈…私…リーさん。今、205号室前にいるの〉
〈…私…リーさん。今、206号室…貴方の部屋の前にいるの〉
〈…私…リーさん。今、貴方の部屋の前にいるの〉
〈…私…リーさん。今、貴方の部屋の前にいるの〉
〈…私…リーさん。今、貴方の部屋の前にいるの〉
〈…私…リーさん。今、貴方の部屋の前にいるの〉
〈…私…リーさん。今、貴方の部屋の前にいるの〉
・
・(以降同じ言葉の繰り返し)
・
〈…私…リーさん。*****(Aさんの本名)。今――――
――――ア ナ タ ガ フ リ カ エ ル ノ ヲ マ ッ テ イ ル ノ〉
このメッセージを耳にしたのを最期に、Aさんは亡くなった模様。アンブラが聞いた限り、最後の部分を除いて(声が二重になっているだけだから)、声の主もとい電話の相手は女の人であるが、少女にしては大人っぽく、大人にしては何処か幼さを感じる。推定中学生から高校生くらいの声色である。現実的に考えれば、Aさんの本名を知っていて且つ中学生から高校生の女の人なんて、娘を除いてほかにいない。しかし、Aさんは彼氏といった交際経験は人並みにあれど、結婚には至っていないし、妊娠した経験もない。ならば、少し想像の域を利用して考えると、候補は大きく分けて四つ。
・シンプルに愉快犯レベルのストーカー
・声が特徴的な同年代
・中学時代の同級生もしくは関係者
・高校時代の同級生もしくは関係者
警察はアンブラが提示した候補、もとい条件を満たす人物もしくは手掛かりを洗い出す事で、その日は終了。
それから五日後、Sさんという、アンブラが提示した条件を満たす人に心当たりがあると、隣の県からわざわざ休日を利用して足を運んでくれたAさんの高校時代の同級生が警察署にやって来た。情報提供してもらおうかと思いきや、Sさんのお願いで警察だけではなく、アンブラも同席してほしいと頼まれた。理由は、現実的ではない部分があるからとの事。そこでアンブラも交えて、改めて情報提供してもらう事に。
一応の確認として、まず警察は、事件当日に何をしていたのかを聞いた。その日は隣の県にある$$会社の仕事から帰ってそのまま食事と風呂、睡眠と答えた。後で確認するが、確実に犯人ではないと分かっているため、特に気にせずに話を進める事にした。
警察が形式美を果たした所で、いよいよ本題に入る。それに差当たり、アンブラは一枚の写真を見せた。
「……この子に見覚えはありますか?」
それは、現場でさりげなく撮ったであろう“西洋人形”の写真であった。それを見た途端、Sさんは目を見開き、息を呑みながらも、ボソリと何かを零すように言った。
「モリーさんの……」
「モリーさん?」
誰かの名前であろうが、Sさんが過呼吸気味になってしまったので、一旦写真を懐にしまい、落ち着かせるように優しく声をかけて、深呼吸を促した。その際警察達も背中を擦るなり、水を用意するなりして、Sさんが再び話せる状態になるまで待った。……少し経ったところでようやく落ち着いたようなので、改めて聞いた。
「先程の写真に憶えがあるのですね?」
そう聞くと、Sさんはコクリと小さく頷いた。彼女の肯定を確認したところで、先程の発言について問い詰めた。
「モリーさんとは、先程の写真の子の名前ですか?」
そう聞くと、Sさんは首を横に振って、ポツリポツリと答えた。
「モリーさん……森 つむぎさんは、私とAさん達の高校時代のクラスメイトの渾名で……いじめられっ子、でした……」
その名前を聞き、警察は森さんについて調べようかと思いきや、Sさんが自分で持ってきた鞄からある物を取り出し、それをアンブラに差し出した。それは一冊の卒業アルバムであった。警察達からすれば情報提供を頂けるのはありがたい。……しかしアンブラは、表紙に書かれている字を見て、Sさんに疑問を投げかけた。
「……何故中学生時代のアルバムだけしか持ってきていないのですか?」
「…………」
そう。Sさんが持ってきたのは、高校生時代の卒業アルバムではなく、中学生時代の卒業アルバムだからである。高校の同級生であると言っていたにも拘わらず、その一つ前のアルバムを持ってくるとは、アンブラ達からすれば、どういう事だと問い詰めたくもなる。しかし、Sさんは何も答えずに俯いてしまった。
「……失礼。別に怒っている訳ではありません。ただ明確な情報でなければ困る、というだけの話です。……それでは、少し趣向を変えましょう。僕がいくつか簡単な質問をします。正直にハイかイイエで答えて下さい。答えたくない場合は答えなくて結構です。よろしいですか?」
「……はい……」
Sさんの沈む雰囲気を感じ取ったアンブラは、具体的な答えではなく、二択形式で質問し、答えを導く事にした。
「中学生時代のアルバムを持ってきたという事は、Sさんと森さんは中学生時代の同級生という事ですか?」
「…はい」
まずは、中学時代のアルバムを持ってきた理由を、自分なりに考え、正しいかどうかの確認を取ると、Sさんは先程の返事よりかハッキリと答えてくれた。ここから少しずつ関係性を導く為にいくつかの質問をする。
「Aさんも中学の同級生ですか?」
「いいえ」
「森さんとSさんとは、小学生以前の付き合いがありますか?」
「いいえ」
「森さんとSさんは、仲が良かったですか?」
「いいえ」
「森さんとAさんは、仲が良かったですか?」
「いいえ」
「AさんとSさんは、仲が良かったですか?」
「……いいえ」
「森さんとは、同じ高校に通っていましたか?」
「はい」
「森さんは、中学と高校のどちらかで人気者でしたか?」
「いいえ」
「森さんは、いじめられっ子と言っていましたが、いじめを受けたのは、中学生の頃からですか?」
「……はい」
「森さんを直接いじめたのは、君ですか?」
「……いいえ」
「森さんを直接いじめたのは、Aさんですか?」
「……はい」
「Aさん以外にも、森さんをいじめた人がいますか?」
「……はい」
「森さんには、仲の良い友達がいますか?」
「……はい」
「それは、人間ですか?」
「……いいえ」
「それは、人形ですか?」
「……はい」
「いじめ方は、暴力ですか?」
「いいえ」
「何か大事な物を隠す事ですか?」
「はい」
「大事な物を捨てる事ですか?」
「はい」
「助けようと思った事はありましたか?」
「……いいえ」
「見捨てようと思った事はありましたか?」
「いいえ」
「Aさん含めた、いじめっ子が怖かったですか?」
「はい」
「森さんは、中学を卒業していますか?」
「はい」
「森さんは、高校を卒業していますか?」
「……いいえ」
「何故森さんは、卒業していないのかはご存じですか?」
「…………」
「……次の質問に移ります。森さんは、中学生から高校生になった事で容姿、特徴に変化はありますか?」
「いいえ」
ある程度情報がまとまったアンブラは、アルバムを拝見しても宜しいですかとSさんから一応許可を取って貰い、中身を確認した。……ペラリと何枚かページをめくり、Sさんの顔写真があるページで一度めくるのを止め、森さんもとい『森 つむぎ』という女子の顔写真を、警察にも見えるように広げて置き、指をさした。
森さんの見た目は地味、というより前髪を伸ばしすぎているせいで陰気な印象を抱く女の子であった。長い前髪の隙間から目が見え隠れしているのが尚暗い印象を抱く要因になっている。
「それでは質問形式を戻します。答えたくない場合は答えたくないと言って下さい。……この森さんは、どうしてモリーさんと呼ばれているのですか?ただ名字から渾名っぽく呼んでいるだけですか?」
そう聞くと、Sさんはこう答えた。
「モリーさんは……いつもメリーさんと一緒にいる事が多いから、名字と掛け合わせて、モリーさんと呼んで、からかっていました」
「……メリーさん、というのは?」
「さっき見せた写真の人形です。なんでも、亡くなった祖母がくれたと……」
人形。メリーさん。電話。振り返った者は死ぬ。……まさに怪奇現象というより数ある怪異の一つ『メリーさん』と酷似した事件である。こういった事件の前例と森さんの経歴、関連性をここまでの間に調べ上げたであろう警察が入室し、被害者の顔写真をSさんとアンブラのいる机の上にばら撒いた。
「それではSさん。憶えている限りで良いので、この写真数枚の中から知っている方なら君の手元に、そうでない方は返却して下さい。顔と名前が一致しないようでしたら、裏に名前が書かれていますので、ご確認してから仕分けて下さい」
アンブラがそうお願いし、Sさんは真剣に写真を見て仕分け始めた。その間に、アンブラはアルバムの続きをじっくりと見た。森さんが写っている写真を見つけては手を止め、例の人形が写っているのかを確認をする。それを何度か繰り返した。
「……あの、終わりました」
そうしている内に、Sさんの仕分けが終わった模様なので、アンブラはアルバムを閉じて置き、顔写真と名前を拝見する。Tさんという男性一名、KさんとUさん、Wさんの女性三名であった。
「この方達とは、どういったご関係ですか?」
「Tさんは中学の頃に、森さんをいじめていた人で、UさんはAさんの友達で、Wさんは二人のリーダーみたいな人でした」
「……Kさんとのご関係は?」
「……Kちゃんは……高校の時に同じ部活にいた……私の、後輩です……どうして……?Kちゃんは、いじめとは関係ないのに……」
その中で、特にKさんと仲が良かったのか、Sさんはショックのあまりに泣き出してしまった。仲の良い友達等を失うのは、とても悲しく、一種の絶望でもある。
「……事情聴取はここまでにします。ご足労とご心労をおかけして申し訳ございませんでした」
適切な言葉が見つからないアンブラは、これ以上質問等をしたところで進展はないと判断し、泣き崩れたSさんを丁重に帰すことにした。Sさんは電車とタクシーで警察署まで来たようなので、タクシーを手配し、交通費(手間賃含む)を彼女に渡して、駅まで送るようにとタクシーの運転手に伝えた後、アンブラは再び現場へ赴いた。
現場へ二度目の来訪したアンブラは、一直線に206号室にまだ残っている(下手に触ると目を付けられると注意した)人形の前に座り込み、傍から見ていたら完全に精神疾患のある人だと思われるが、そんな事をお構いなしに、彼は人形に話しかけた。
「森さん。君を傷つける人はもう此処にはいません。お家まで送りましょうか?それとも、祖母、お婆ちゃんの家に行きます?僕としては、お婆ちゃんのお墓があるお寺に行く事をお勧めしますが」
そこから少し無言の時間があった。いや、人形相手なのだから話しかけても返事がないのは当たり前であろう。しかし、何かを感じ取ったアンブラは、ある準備と同業者への連絡をした後、すぐさまとある場所へ向かった。
日を跨ぐほどの時間をかけて移動した先は、森さんの祖母が暮らしていた村にある寂れた寺である。現代の少子高齢社会の関係で、村に住んでいる人は数少ない。寺でさえ碌な手入れをしていない状態であるからして、寺どころか廃村になるのも時間の問題であろう。それに関してアンブラは気にもせず、目的の墓まで足を運び、そこの前で人形供養を果たす。人形を持ち運ぶ際、事前に付いた汚れを極力落とし、白い布の上に置き、清めの塩を振りかけ、くるんであるため、あとは焚き上げるだけ。本来ならここまでやる必要はないのだが、可燃ゴミとしてそのまま捨てるなんて、森さんの事情を知ってしまった者にとっては、後味が悪い。なので、お互いに気持ちよく終わらせる為には、この方法が適切なのである。布に包まれた人形が火に包まれ、時折パチパチと火花が散る中、アンブラは完全燃焼するまで火を見ながら、今は祖母に甘えるようにと来世では幸せになれるようにと祈りを捧げた。
ジリリリリリン……ジリリリリリン……
祈りと焚き上げ、その後始末を終えたアンブラが帰ろうとしたその時、皆がイメージする黒電話のベルのような音が鳴り出した。アンブラは足を止め、ポケットから自分の携帯電話を取り出して応答し、耳に当てた。
〈…私、モリーさん。今、お婆ちゃんに会えたの。
……ありがとう〉
それ以降、現場周辺で似たような事件は起きなくなった。
作成者:オートル
某日深夜。数少ない街灯の光に照らされていた黒いファイルをたまたま拾い、好奇心でつい読んでしまった男の人は、内心焦ったというより後悔した。
プルルルルル……ッ!プルルルルル……ッ!
そう思った矢先、男の人の携帯電話の着信音が鳴り出した。知らない番号に戸惑いつつ、詐欺ならすぐに切り、間違い電話なら訂正の言葉を伝えようと思い、電話に出た。
「……はい。もしもし」
〈もしもし。こちらは@@さん(男の人の名前)のお電話で間違いないでしょうか?〉
突然自分の名前を呼ばれてドキッとしたが、違いますと言えばどれだけ良かったかと気付いた時には既に遅い。自分の名前を呼ばれた途端、条件反射で「はい」と答えてしまった。
〈そうですか。……おっと、申し遅れました。僕は怪奇調査班のアンブラと申します。突然ですみませんが、君は今、黒いファイルをお持ちでしょうか?もし拾っておりましたら、大変申し訳ございません。そちらは、ウチの同僚が落としてしまった大事な資料なんです。今から取りに行きますので、その場でお待ち下さい〉
電話の相手、アンブラという名前を聞いた途端、@@は背中に冷や汗もとい悪寒が走った。何故このタイミングで、しかも知らない筈の番号に電話してきたのか、怖くなってきた@@はファイルを捨てて逃げようと思った。
プルルルルル……ッ!プルルルルル……ッ!
しかし、その瞬間、再び同じ番号から電話が鳴った。その番号を見てすぐさま拒否のボタンを押しても反応しない。それどころか強制的に通話状態になった。何度拒否のボタンを押しても反応せず、壊れてしまったのかと自分に言い聞かせるように諦めて、電話を耳に当てた。
〈……お待ち下さいという言葉の意味、分かってます?〉
先程の時と違い、冷たい口調で金縛りさせるように@@の手足を止める。言われた@@が止まったかと感じてかは分からないが、一つ溜め息を吐いたかと思ったら、先程のように穏やかな口調で話しかけてきた。
〈もう少しでそちらに着きますので、そこを動かないで下さいね?〉
ブツッと再び電話が切れた音と共に、@@の思考は恐怖を通り越して、もう逃げられないと悟った。そこから@@は、まるで自分は人形と言い聞かせるように、その場から一歩も動かず、次の着信を待った。
プルルルルル……ッ!プルルルルル……ッ!
一分経った所で、@@はこれが最期の電話かと思いながら、携帯電話の通話ボタンを押して、耳に当てた。
〈もしもし@@さん。アンブラでございます。度々申し訳ございません。僕は今、君の背中を確認しました。この電話が切られましたら、後ろを向いて、ファイルを渡して下さい。良いですね?……それでは〉
ブツッと三度目の電話を切られたと同時に、@@は言われた通りに体を後ろに向かせ、黒いファイルを差し出した。咄嗟なのかは分からないが、何故か回れ右してお辞儀をしながらファイルを両手に持って渡す様子は、まるで卒業証書を渡す校長先生のようであった。
「……ご苦労をお掛けしました。それでは、失礼します」
しかし、今@@の正面に立っているアンブラにとっては些細な事なので、差し出された黒いファイルを普通に受け取り、一言挨拶をし、一礼をしてから、まるで闇に紛れるように音もなく立ち去った。アンブラが消えたように見えた@@は、もう二度とこの道を通らないと心に決め、すぐさま逃げるように走り去って行った。
如何でしたか?
リアルの知り合いから、自分の書き方はサスペンス向けではと言われてやってみたのですが、大したホラーではないですね(笑)
しかも、自分自身サスペンスというものをよく理解していません。ですが、自分なりに作りました。
……評価等次第では、短編集的な形で投稿しようかと考えています。
……まぁ、仮にやるとしても投稿頻度は現在制作中の物語よりもかなり遅いでしょう。